マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第2章 スーパーヒーロー、その名はボウフウリン
「そうか……?」とまだ少し納得してなそうな感じだったけど、最後には納得してくれた桜さん。それに気づかれない様ホッ、と安堵の息をつく。
(あ、危なかった……)
顔だけじゃなく耳まで赤くなっている桜さんを見て、少しかわいらしいなと思ってしまったのは、本人には絶対に内緒だ。そうじゃないと、今度こそ怒られそうだから。
コホン、と咳払いして気を取り直し、姿勢を正して彼らをひとりひとり見渡す。蘇枋さんとにれさんはにこやかに、桜さんはさっきのことが尾を引いてるみたいで、顔を少し赤くしながらそれぞれ待ってくれていた。
それに応えるために、いざ自分の名前を言おうと口を開いてふと止まる。
(……あ、あれ?名前が、出てこない?)
名前を言う時は、意識しなくても自然と出てくるものだ。それなのに、ひと文字も出てこないことに困惑する。
(……もしかして、私は自分の名前も忘れてるの?)
そんな馬鹿な、と思うけど、未だに出てこないということは、もうそうなのだろう。
自覚してなかった事実に顔を青くしていると、私の表情を見て察したのだろう蘇枋さんが「もしかして、名前が思い出せないのかい?」と、少し目を見開いて驚いた様に聞いてきた。その質問に、私は力無く頷く。そしたら、桜さんとにれさんも目を見開いて驚いた。
「……どうやら、思った以上に事態は深刻みたいだね」
眉間に皺を寄せながら顎に手を当て、深刻な表情で言う蘇枋さん。その言葉に同意する様に、桜さんとにれさんも同じ表情で頷いた。私もまた、力無く同意しながら考える。
(どうして、自分に関することだけ忘れてるんだろう……)
日常生活に必要な知識などはちゃんと覚えているのに、ピンポイントに自分のことだけ抜け落ちているなんて。
候補として、やっぱり私は死んでいるから説が上がるけど、名前まで忘れるなんてあるのだろうか。それに、これから彼らと一緒に自分が生きていることを証明すると決めた以上、この説は是非とも否定したい。
ならどうしてなのか、今一度考えるけど、まったく見当がつかない。それに落胆しながら、いったん保留にして別のことを考える。