マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
「あ、あの……!」
蘇枋さんと話していると、にれさんが片手をビシッ、と上げながら意を決したように話しかけてきた。
「は、はい!何でしょう?」
「オレに、あなたの記憶を取り戻す手伝いをさせて貰えないでしょうか……!」
「…………え」
「ダメだよにれ君。そこはオレじゃなくて、オレ"達"って言わないと」
「えっ、でも、これはオレが勝手に言い出したことで」
「それなら心配しなくても大丈夫。オレも言おうとしてたからね」
「えっ……」
「本当ですか!」
「もちろん。ねっ、桜君」
「あっ……!?……ま、まあ」
「さすがです!蘇枋さん!桜さん!」
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
当事者である私を置いてけぼりにして進む会話に、慌てて待ったをかける。そしたら、まさか止められると思ってなかったのか、3人とも不思議そうにこちらを見てきた。
「みなさんの申し出は、とてもありがたいです」
そう、とてもありがたいことだ。
記憶を取り戻そうにも、ここは私にとって知らない土地で、右も左も分からない状態。それに何しろ、他の人達に私が見えてない以上、彼らに手伝って貰った方がよりスムーズに進むと分かっている。
「でも、これ以上迷惑をかけるわけには」
「カン違いすんじゃねぇ……」
「!?」
迷惑をかけるわけにはいかない。
そう言い切ろうとして、遮ったのは桜さん。
少し厳しい言い方にビクッ、と肩が揺れて恐る恐る彼を見ると、私の予想に反して桜さんの顔には赤みがさしていた。その表情を見て、一瞬身体に入った僅かな力が抜ける。
「じ、事情を聞いといて、なにもしねぇのはイヤだっただけだ……」
「!」
「だ、だから……!べ、別にお前のためじゃ……!」
「バカだなぁ、桜君」
「誰がバカだ!」
「こういう時は何て言うか、ことはさんから教わったじゃないか」
「!…………ま、任せとけ……」
「っ……」
吃りながらも言い切った、その頼もしい言葉に、迷惑をかけるわけにはいかないと決めた気持ちが揺らぐ。