マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
「マジ、かよ……」
「!」
耐えていると、いつの間にか蘇枋さんの隣に移動していた桜さんが、驚いて目を見張っている。その表情を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。信じてくれていたのに。
「っ、ごめんなさい……」
「!……っ、」
ようやく自分の意思で声が出せるようになって、さっきの傷つけてしまった分も含めて桜さんに謝る。そしたらハッ、とした様子を見せてくれたけど、すぐに眉を寄せながら視線を逸らされ、押し黙ってしまった。
その反応に悲しくなる反面、仕方ないとも思った。だって私は、それだけのことを彼にしてしまったのだから。
「…………」
桜さんの隣に立っていたにれさんは、再度目にした光景と桜さんの様子を交互に見て、とても複雑そうに顔を歪めていた。
そんな彼らに対して、何を言えばいいのか分からずにいると、真面目な表情に変わった蘇枋さんが口を開いた。
「どうしてこんな状態になってしまったのか、聞いてもいいかい?」
「……はい。でも、実は私にもよく分からないんです」
「分からない……?」
「はい……気づいたらこの商店街にいて、その時からこの状態になっていたと思います」
「……もっと詳しく聞いてみてもいいかな?」
より真面目な顔になった蘇枋さんの質問に私は頷いて、あの真っ暗闇の空間にいた時から今までのことを、思い出しながら説明する。その間、蘇枋さんとにれさんは時々相槌を打ちながら、桜さんは逸らしていた視線を私に戻してじっ、と黙って聞いていてくれた。
そしてすべてを話し終え、少しの沈黙の後、最初に言葉を口にしたのは蘇枋さんだった。
「……オレには、相手から存在を認識されない、という経験をしたことがないから、軽々しく何かを言うべきじゃないって分かってるけど、これだけは言わせて欲しい。……よく、今まで頑張ったね」
「!」
眉間に少しの皺を寄せ、辛そうに投げかけてくれたのは、そんな優しい労りの言葉。
まるで、私の痛みを自分のことのように感じてくれている蘇枋さんの姿を見て、何だか無性に泣きたくなってきた。でも、今ここで泣いてしまったら、彼らに迷惑をかけてしまう。それだけは避けたいから、涙を堪えながら蘇枋さんにお礼を言った。