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マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】

第1章 光差す向こう側で


蘇枋さんが口にしたのは、私が今まで抱いてきた気持ちの核心をつく言葉。驚愕して彼の顔を凝視すると、とても真剣な表情で私を真っ直ぐ見つめていた。その瞳から誠実さを感じて、嘘をついている様には見えない。

……思えば、初めからだ。まるで心の中を読んだかの様に、欲しい言葉をくれたのは。きっと蘇枋さんは、観察眼がとても優れているのだろう。その上で、泣きたくなるくらい優しくしてくれる。
……そう、彼らはとても心優しい人達だ。
桜さんは、最後まで私が普通の人間だと信じてくれた。にれさんだって、手がすり抜けたことを言う時、躊躇ってくれた。なにより蘇枋さんは、最初に私を見つけてくれた張本人だ。

(……だから、大丈夫)

小さく深呼吸してから蘇枋さんを見上げ、意を決してコクリ、と頷く。そしたら、彼は安心した様に表情を和らげて「ありがとう」と呟いた。そして、止めていた手を動かし、そっと私の頬に触れて親指を横に滑らせる仕草をしたけど、結果は予想通りで、蘇枋さんの手の感触を得ることなくすり抜けた。それを目の当たりにした蘇枋さんの目が小さく開かれる。
その瞳を間近で見て、ふと気づいた。彼にも触れることが出来なかったのに、自分が悲しみに暮れることなく平常心でいることに。それは覚悟を決めていたからか……いや、違う。
蘇枋さんの触れ方が、あまりにも優しかったからだ。まるで壊れものに、大切なものに触れるかの様に。感触はなかったけど、それだけは分かった。
だから悲しい気持ちより、その優しさを肌で感じることが出来ない寂しさの方が――――

「っ!」

そこまで考えてハッ、と我に返る。
……今、何だかとてもすごいことを考えていた様な気がして、途端に恥ずかしくなった。この気持ちを蘇枋さんに悟られたくなくて、顔が赤くならないよう頑張って耐える。


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