マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
「っ、」
「あ?」
その言葉に、心臓が一層大きく脈打つのと、桜さんが不可解そうに首を傾げたのは同時だった。
(やっぱり……)
蘇枋さん達に見えてるからといって、他の人達にも私が見えるようになったとは限らない。それなのに、気づかない内に心のどこかで安心していたのだろう。自分は普通の人に戻れたのだと。……そんなことはなかったのに、何を勘違いしていたのだろうか。
(私は、やっぱり死んでるのかな……?)
あの時感じた、ひとりぼっちの感覚が戻ってきて胸が苦しくなる。
思わずギュッ、と手で押さえた私は気づかなかった。
「…………」
蘇枋さんにじっ、と観察する様に、真剣な表情で見られていたことに。
「誰と話してるのかって、コイツに決まってんだろ」
桜さんは呆れた様にそう言って私を指差すけど、きっと男の子には見えていない。その証拠に、顔は青白いまま、信じられないものを見たかの様に目を見開いたからだ。
それは彼にとって予想外の反応だったのだろう。桜さんも目を見開いて、身体が固まるのが分かった。
「……あのっ、助けてくれてありがとうございました……!このご恩は忘れません……!それじゃあ僕、これで失礼します……!」
男の子は蘇枋さんと桜さんに口を挟ませないよう一気に捲し立てて、顔を俯かせながら早足で私達の横を通り過ぎた。……でも、私は見てしまった。通り過ぎる一瞬、彼らを気味悪そうに見つめたのを。
「っ、」
その表情を見て、桜さん達には勿論、男の子にも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
この状況下でも、しっかりお礼を言えていた男の子は、きっととてもいい子なはずだ。それなのに、あんな顔をさせてしまった。……私を見つけてくれた彼らに、あんな顔を向けられる原因を作ってしまった。
それが本当に悲しくて、申し訳なくて、謝ろうと口を開いたけど、先に言葉を発したのは桜さんだった。
「な、なんだよあれ……!まるで、コイツのことが見えてねぇ反応しやがって……!」
「……桜君、落ち着いて」
「落ち着いていられるかよ……!お前もお前で、なんで何も言わねぇんだ!いないもの扱いされたんだぞ!」
「そ、それは……」