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マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】

第1章 光差す向こう側で


(まさか、ナイフで桜さんを刺すつもりなんじゃ……!)

慌てて桜さんの様子を確認する。
彼は対峙していた男の人と戦っているところだった。

だめ!止めないと!知らせないと!このままじゃ桜さんが!
頭の中でぐるぐる思考が巡るけど、足が鉛の様に重くなって行動に移せない。声帯を取り上げられたかの様に声が出てくれない。その間にも、ナイフを手にした男の人がゆっくり、だけど着実に桜さんに近づいていく。その様子を見て、焦りが募る一方。
そして、桜さんが相手を倒したのと同時に、男の人が彼に向かって駆け出した。

「っ、桜さんっ……!!後ろっ……!!」

死。
その単語が頭に駆け巡った瞬間、あんなに出なかった声が出て、悲鳴に近い叫びが口から飛び出していた。

「っ!!」

私の必死の叫びに瞬時に振り返った桜さんが、後ろから迫っていた男の人をその両目でしかと捉える。

「はっ!?なんで気づいて……!?」

男の人は確実に刺せると確信していた様で、鋭い眼光の彼と目が合ったことに驚いて、一瞬足が止まる。その隙を、桜さんは見逃さなかった。
瞬く間に男の人との間合いを詰め、相手が持っているナイフを蹴り飛ばし、固く握られた拳を頬目がけて振り抜いた。

「あ……」

桜さんが構えを解く動きと、男の人が地面を転がるのがやけにスローモーションに見える。でも、やがてそれも終わり、両足でしっかり立っている桜さんが、遠くに飛んだナイフを冷めた目で一瞥する。そして次に、地面に倒れて気絶している男の人を同じ目つきで見つめた。

「喧嘩にンなもん使ってんじゃねぇよ。ダセェ」

そのひと言が、勝敗が決した合図だった。

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