マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
そしたら彼は一瞬きょとん、として、次には「うん。いい返事だ」と小さく笑いながら言った。そして「彼と一緒に待ってて」と言い残し、今度こそ踵を返して路地に入って行った。その足取りはとても軽やかで、余裕すら感じられるほどだ。
それでも、2対10という圧倒的な人数不利には変わりない。心配しながら蘇枋さんの背中を見送っていると、後ろから「大丈夫です!」という力強い言葉が聞こえてきた。その言葉に驚いて振り返ると、にれさんが満面の笑顔を浮かべて私を見つめていた。
「桜さんと蘇枋さんはとってもお強いので、すぐに終わらせて帰って来ますよ!だから大丈夫っす!」
「!」
その言葉と表情から、彼が桜さんと蘇枋さんを誇りに思っているのが窺える。2人を信じている、と。
おかげで私にも余裕が生まれ、安心して頷こうとした時
――ゾワリッ
「!?」
妙な胸騒ぎを感じて、肌が粟立つのが分かった。
(な、なに……?)
突然の不可解な感覚に困惑していると、私の様子に気づいたにれさんが心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫ですか……?顔色が悪いっすよ……?」
「ご、ごめんなさい……。突然、何だか胸騒ぎがして……」
「胸騒ぎ、ですか?」
「はい。……どうしてか、分かりませんが……」
「うーん……」
突然のことだったのに気のせいだ、と一蹴せず、親身になってにれさんも考え出してくれた。その気遣いに心の中で感謝しつつ、私も原因を探す。
胸騒ぎがしたのは、蘇枋さんを見送って、心配する私をにれさんが元気づけてくれた後だった。
(…………もしかして、蘇枋さんと桜さんの身に何か良くないことが起こるんじゃ……!)
タイミングを考えたら、そうとしか思えない。
導き出した答えに、顔を青くしながらにれさんを見ると、彼もまったく同じ表情でこちらを見つめていた。……どうやら、私達の考えていることは一緒みたいだ。