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マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】

第1章 光差す向こう側で


「いやー、さすが桜君。行動が素早いなー」
「そんな呑気に言ってる場合ですか蘇枋さん!どうして普通に見送ってるんすか!相手が何人いるのかも分からないのに!」
「しょうがないじゃないか、にれ君。止める暇もなく行っちゃったんだから」
「それはそうっすけど……!」

追いついた金髪の子――にれさんと、目の前にいる彼――蘇枋さんが会話を繰り広げる。その会話を聞いて、蘇枋さんだけじゃなく、にれさんとさっきの白黒の彼――桜さんにも私が見えていることに遅れて気づいた。

(まさか、立て続けに3人にも出会えるなんて……!)

今までの状況を思えば信じ難い現実。だけど、彼らは消えることなく目の前に居続けている。その変わらない事実に、嬉しい気持ちが込み上げてきた。視界が涙で滲み、感極まって泣きそうだ。

(でも、泣いてる場合じゃない……!)

急いで目に溜まった涙を拭い、2人の会話に加わるために口を開く。

「あの!カツアゲしてた人達は、10人ぐらい居たと思います!」

あの時見たカツアゲ現場の様子を思い出しながら伝える。すると、彼らは驚いた表情で私に顔を向けた後、すぐ真剣な表情に変わり頷いた。

「10人ぐらいか……桜君なら平気だと思うけど、一応を考えて様子を見て来るね」
「はい!」
「にれ君は、彼女と一緒にいてくれるかい?」
「分かりました!」

蘇枋さんは素早く指示を出し、元気いっぱいに返事をするにれさんを微笑ましく見つめて路地に向かう。でも、すぐに足を止めてこちらを振り返った。……その視線は私に向いていて、目が合うとにこり、と柔らかく笑った。

「もう、大丈夫だからね」
「あ……」

その励ましの言葉は、蘇枋さんからしたら"カツアゲされている男の子は助かるよ"という意味で言ったのだと分かってる。だけど、私からしたらそれだけじゃなく、"自分を取り巻くこの不可思議な状況"も何とかなるんじゃないか……そう勇気をもらえた様な気がした。

「はい!!」

決して楽観視してるわけじゃない。だけど、あの時感じた孤独感は確かになくなっていて、だんだん身体に力が湧いてきた。そして、気づいたら大きめな声で返事をしてしまっていた。それが恥ずかしくて、慌てて両手で口を塞ぐ。
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