第1章 夏油傑 奪ってでも欲しいもの
『傑っ‥待って‥痛いよ‥っ』
すぐに屋敷に連れ戻されて
今度は地下に続く階段をスタスタと降りて行く
ギュッと掴まれた手首がじんじんと痛む
「‥」
歩くスピードを緩めないまま
1番奥にある部屋に入ると今度はガチャりと扉の鍵を閉められる
『逃げてごめんなさい‥』
怒られると思って下を向くと優しく腕の中に抱きしめられた
「前は私が手放したのにね‥‥がいなくなったと思ったら息がつまりそうだった‥」
『っ‥‥』
優しく抱きしめられているその腕は小さく震えていて
長い前髪の隙間から見える顔は苦しそうに歪んでいた
こんなにも辛そうな傑の顔は
あの日以来で
思わずギュッと背中に手を回して私も傑を抱きしめる
『ごめんなさい‥‥もう勝手にいなくならないから‥』
悟と同じくらい背が高くて大きな傑の背中を
赤子をあやすように優しく撫でる
「傷つけたくなかったのにね‥結局はを泣かせてしまって‥‥本当に悪いことをしたと思っているよ‥」
『うん‥私も‥‥傑が辛かったのに助けてあげられなくて‥気付いてあげられなくて‥ごめんなさい』
「あんなに眩しい日々の中で‥皆に囲まれて‥それなのに気付けば私は心の底から笑えなくなっていた‥‥それでも、を想う気持ちは昔も今も変わらない」
『う‥ん‥』
過去の辛い事を少しずつ吐き出すようにして話す傑の声を聞いて
涙が頬を伝っていく
「愛しているよ‥」
ギュッと抱きしめていた身体が少し離れて
傑の大きな手が優しく頬の涙を拭い取って
触れるだけの口付けが交わされる
『人の命は戻ってこない‥‥傑のした事は一生をかけて償わなくちゃいけない‥‥でも私は‥傑の事を‥知りたいし助けてあげたい‥償えるなら一緒に‥』
そこまで話すと優しかった口付けが突然深くなって
掻き抱くように抱き寄せられる
「これだからは‥っ」
少し震える声は泣いているように聞こえた
勿論悟の事は大事だけど
悟には硝子もいるし
学長も生徒達だっている
今からでも
傑を救えるなら救いたい
またあの頃みたいに戻れるなら