第1章 夏油傑 奪ってでも欲しいもの
『な‥に‥言って‥‥』
獲物を捕えるような鋭い目にびくりと身体が揺れる
そしてもう一度キスをしようと傑が近付いて来た時にコンコンと襖を叩く音が聞こえてきた
「夏油様‥‥申し訳ございません」
「さっき言ったはずだけどね‥‥急用かい?」
「それが‥会長様がいらっしゃいまして夏油様にお会いしたいと‥」
「はぁ‥‥会長なら仕方がない‥‥すぐに向かうと伝えてくれ」
そう言うと私の身体を解放して
少し乱れていた衣服と髪を整える
「これは預かっておくよ‥私は少し用事を済ませてくるから」
さっきまでの鋭い目つきが柔らかくなり
昔みたいな優しい顔で微笑んで
私の携帯をポケットにしまったまま部屋から出ていってしまった
『とりあえず‥‥ここから出なきゃ‥』
足音が遠ざかっていって暫くしてからゆっくりと動き出す
連絡をする術は他に持っていない
皆んなに心配と迷惑をかけないためにも
とにかく早くここから出ないと
傑が出ていった襖に手をかける
幸い鍵がかかっておらず
ゆっくりと扉を開くと先ほどの長い廊下がみえた
足音をたてないように
それでいて速やかにここを離れられるように歩くスピードを早めて行く
傑が私をここに連れ去ったということは何かもっと伝えたい事があるのかもしれない
それでも高専の皆んなや悟の事を思うと突然姿を消したままではいられない
『はぁ‥っ‥‥はぁ‥っ』
廊下は思っていたよりも長くて
息を潜めて走っていると胸が苦しくなってくる
『悟‥‥ごめんなさい‥』
傑がいなくなってから
悟だってとっても辛かったはずなのに
たくさん支えてくれて
気持ちを伝えてくれて 指輪をプレゼントしてくれた
ずっと友達だったから
恋人として2人で過ごすのは何だか少し照れくさかったけど
それでも私の中で悟は特別な人になっていった
「僕はさ‥最強だけどを失う事だけは耐えられないから‥‥ずっとそばにいてくれよ」
強く抱きしめられた腕の中で
初めて震える声を聞いたあの日
悟をこれ以上傷付けさせないと誓ったのに
私はなんて無力なんだろう