第1章 夏油傑 奪ってでも欲しいもの
五条side
胸騒ぎがする
とてつもなく嫌な予感に高専へ向かう足が自然と早足になる
「こんぶっ‥‥!おかか!」
聞こえてくる棘の焦ったような声に既にドクドクと早まっていた鼓動もどんどんとスピードを上げていく
「どうした‥?何があった‥?」
「っ!」
「ご‥五条先生っ‥‥さんが‥っ」
棘の横でガタガタと震えていた憂太の目からは今にも涙が溢れ落ちそうだ
「が‥どうした‥?」
「さ‥攫われ‥ました‥‥っ」
パニックになりそうな憂太と
がっくりと項垂れる棘
「攫われた‥?誰に‥?」
「一瞬だったんではっきりと分からないんです‥っ‥けど‥黒髪の‥長髪で‥お坊さんのような格好をしていました」
黒髪の長髪
そのワードに胸騒ぎがさらに酷くなる
学生の時からずっと片想いしていて
ようやく振り向いてもらえたってのに
「大丈夫!この五条先生に任せなさい!」
「っ‥」
自分達がそばに居たのに
守れなかった悔しさからだろう
爪が深く食い込むほど掌をギュッと握りしめる2人の肩を優しくたたく
「とりあえず僕は現場を見てくるから、2人は硝子のところへ」
焦りを悟られないように
笑顔を顔に貼り付けて
深く頭を下げる2人にひらひらと手を振って教室を後にする
さびれた商店街
上を見上げるとそこにはかつての親友の残穢
間違うはずもない
「はぁ‥‥‥勘弁‥してくれよ‥」
思わずその場にしゃがみ込んで
ぐしゃりと髪を掴む
「なんで‥‥今更‥」
傑も僕も
学生時代からに惚れていた
ふざけてばっかりだったあの日々は
馬鹿馬鹿しくてそれでもキラキラと輝いていた
どっちが先に手に入れるかなんて言いながら
勝負がつく前に傑は僕達の前から姿を消した
「恋人も親友も‥‥これ以上奪わないでくれよ‥」
何度も鳴らしている携帯電話は電源が入っていないのか繋がらない
傑がいなくなってからひどく憔悴したを幸せにすると誓ったのに
自分の無力さを呪いたい気分だった