第1章 夏油傑 奪ってでも欲しいもの
夏油side
昨日の夜の甘い行為の記憶すら残らないほど
薬の効果は充分すぎるくらいにあった
いずれ解けてしまう呪いだけど
今はこうして2人で昔のような穏やかな時間を過ごしたかった
おろしていた髪の毛を半分まとめ上げて
水をとりにいって戻るとキョトンとした大きな瞳で見上げてくる
『傑‥‥急に背が伸びた‥‥?髪型も変えたの‥?』
高専時代にまで記憶が後退しているは
自分達が今高校生だと思い込んでいて
大人になった記憶は一切残っていない
「まぁ成長期だからね‥?それに‥可愛い彼女によく思われたくてね、髪型を変えてみたんだ」
さらりと笑顔で嘘を吐くとゆっくり首を傾げる
『彼女‥?傑、彼女できたの?』
「ええ〜?昨日の私の告白まで忘れてしまったのかい?付き合ってくれるって言ったのに‥‥」
わざとしゅんと項垂れてみせるとワタワタと慌て始める
『ええっ?!ごめんなさいっ‥!私‥ほんとなんでっ‥そんな大切な事まで忘れて‥最低だね‥っ』
みるみるうちに真っ赤になっていく様が可愛くて思わず吹き出してしまう
「ははっ‥!本当に‥‥可愛い私の彼女」
ベッドサイドにペットボトルを置いて
真っ赤になって照れるを抱きしめる
『怒ってる‥?』
疑うことを知らないが申し訳なさそうに腕の中から見上げてくる
「怒ってる‥かな」
『そうだよねっ‥‥本当に‥ごめんね‥っ』
今度はがしゅんと項垂れる
「キスしてくれたら許してもいいかな‥」
『キ‥キスっ?!』
「ダメ‥かい?」
『ダメっ‥じゃ‥ない‥‥やってみる‥』
私の彼女だと思い込んで
恥ずかしそうにギュッと目を閉じたままぎこちなく軽く触れるだけのキスが交わされる
「もう2度と忘れないこと‥」
触れただけの唇にゆっくりと舌を挿入すると身体がぴくんと跳ねる
ずっと欲しかったがこうして今腕の中にいる
それだけで世界はこんなにも輝いて見える
「猿のいない術師だけの幸せな世界を作ろうね‥」
一生懸命キスに応える身体を優しくベッドに押し倒した