第5章 乙骨憂太 嫉妬
狗巻side
声をあげたいのに息すらまともに出来ないほどキツく口元を抑えられていて
酸欠で頭がくらくらする
でも
今はそんな事どうだっていい
現実だとは到底信じ難い光景に胸が張り裂けそうだ
喋る呪霊
知能も高く
これは確実に二級相当の呪霊ではない
一級、いや
それ以上
特級相当の気配をびりびりと感じる
部屋の中に張り詰める緊迫感とは裏腹に
ぐぽぐぽと卑猥な水音だけが耳を支配する
清楚なによく似合う白のセーラー服が乱れて
怒りでおかしくなってしまいそうだ
頭の血管が切れそうで
脳内は真っ白で
ただひたすらに無力な自分を呪いたかった
「種付完了」
「っ?!」
にやりと呪霊が口角をあげると同時に
小さな口から白い液体がごぷっと溢れ出た
『はぁっ‥‥はぁっ‥はぁっ‥はぁっ‥‥』
ぐったりと力の抜けた身体
太腿に流れてくる白い液体
何が行われたのかはこの怒りに狂う思考でも容易に理解できて自分でも想像できないほどの力で口元の触手を引き剥がした
「ぶっ殺す‥‥」
制服のジップを全て下げて小さく呟いたと同時に廃墟が凄い勢いで吹き飛んだ
明るく開けた視界
そこには宙に浮かぶ五条先生の姿
「待たせたね棘‥‥は意識失ってるか」
目元の目隠しをぐいっと上げると空の青よりも綺麗な碧が呪霊を睨みつける
「聞き捨てならない台詞が聞こえたからお前死刑ね」
そう言えばさっき確かに聞こえた
こいつ
種付完了とか言ってたな
そんな事を酸欠の頭で考えているとあっという間に目の前の呪霊が祓われて
五条先生の腕の中にはぐったりと気を失ったが抱き抱えられていた
「棘ありがとね‥硝子が帰ったらすぐに診てもらって‥それまでは待てないから先に僕が連れて帰るよ」
「‥しゃけ」
ありがとうなんて言われるような事
一つもできてない
顔を上げることができなくて項垂れていると大きな手がぽんぽんと優しく頭を撫でた
「棘がもう一体を抑えててくれたから連れ去られずに済んだんだよ、ありがとう」
整った顔で爽やかに笑うとあっという間に姿を消してしまった