第4章 七海健人 覚悟
七海side
仕事の日だととっくに家を出るような時間
窓の外はすっかりと明るくなっているが
さんは未だすやすやと安心したように腕の中で眠っている
そんなさんの携帯電話がさっきからずっと音楽を奏でている
アラームではない
恐らく今頃自分がやらかした事に気付いたであろう
五条さんからの鬼のような着信を無視して電源を落とし
子供のように体温の高いさんの身体を抱きしめる
こんなにも幸せな時間によぎる死の恐怖
「また‥無茶したんでしょうね‥」
朝日に照らされた身体
増えた傷
白く
柔らかな肌に残るそれは随分と痛々しい
それはまた自分も然り
腹に受けた深い傷を押さえて苦笑いをする
呪術師という仕事はこんなもんだ
分かっているはずなのに
死など
とうの昔に覚悟をしていたはずなのに
大切なものが出来た途端にこんなにも死ぬのが怖くなる
それと同時に
こんなにも生きている事を幸せに感じる
そんな自分を
天から灰原が温かく見守ってくれている気がした
『ふふ‥‥なんだかしあわせそうなかお‥』
気付けば寝ぼけ眼のさんがこちらをみてふわりと微笑んでいる
「ええ‥最高な気分ですよ」
あなたのおかげで
と心の中で付け加える
腕の中のさんはさらにご機嫌そうに頬を緩めて話を続ける
『けんとも‥‥かくご‥してね?』
「覚悟‥?ですか?」
『わたしに‥あいされる‥かくご‥』
「っ!」
ふわりと微笑むとまた腕の中ですやすやと眠り始めてしまった
「そんな覚悟、いくらでもしますよ」
ポツリと呟くとまた灰原が笑った気がした
「愛される覚悟‥か‥自分で言っておきながら、人に言われると照れますね‥」
柔らかな頬を指先でつつきながら
世界で1番幸せな覚悟を胸に
私も共にもう一度夢のなかへと落ちていった