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【呪術廻戦】薄夜の蜉蝣【R18】

第9章 桔梗の君



「悟様、行き先に変更は御座いませんか」

信号で止まった際に、お付きの人がこちらを向いて五条先輩に声を掛けた。

目尻が優しそうな年配の男性だけれど、なんとなく五条先輩のワガママには耐えられそうな程の貫禄が感じられる。

「あぁ、そうだな」

彼はお付きの人に目配せした後、チラリと私の方を見て不敵に笑う。そして、その形の良い薄い唇を開いた。

「予定通り、『橘』へ向かえ」
「かしこまりました。念のためにシートベルトをお締め下さい」

お付きの人は、静かにそう返事をするとハンドルを切った。

シートベルトを締めた私に、今から向かう橘という呉服屋は都内に有り、本店は京都にあるお店なのだとお付きの男性が教えてくれた。

メールで言っていた、「祭りの前に寄るトコ」はそこなのだろうか。

事前に五条先輩だけで行かずに、わざわざ、祭りの前にお付きの人を巻き込んで私を連れて行く理由がまったく予想出来なかった。

だって、庶民で普通に生きてたら着物を売っている呉服屋なんて足を踏み入れない。

五条先輩に話し掛けようとしたが、先輩はサングラスをしたまま窓から外を眺めているので、私は声を掛けようとして止めた。

車内が沈黙で満ちたまま時間は過ぎ、暫くして、車は都内の一等地にあるお店の駐車場に停まった。

車が停まると、お付きの人がドアを開ける時間も待てなかったのか、五条先輩がさっさと先に降りた。

私も慌てて後に続く。お付きの人は車から降りずに、私達の帰りを待つようだ。

素人の初見でも分かる。

橘というお店は高級店なのだろう。

立派な門構えのお店で、暖簾に家紋のような模様と橘の文字が描かれていた。

衣桁(いこう)に掛けられた、鮮やかな朱色の柄の着物がディスプレイされていて、思わず目を奪われる。

値段を見てから驚いて口元を手で押さえたが、共に飾られている帯は見惚れるほどの繊細な刺繍が施されており、もはや芸術品だ。



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