第13章 白夜の陽炎✿
「僕のこと以外、考えなくていいよ」
涙でボヤけた視界では、悟の表情をはっきりと伺うことは出来ない。
それでも、彼を見つめ返しながら「どこにも行かないで」と、しがみつきながら囁いた。
「行かない。絶対に」
私の不安を吹き飛ばしてくれるような、力強い声音。
安心する。
きっと、これが私の幸せで、これから先も彼を軸にして人生が回るのだと信じて疑わない自分がいる。
込み上げるような絶頂の予感に、私は全身を震わせる。彼から与えられる熱を身体中で感じながら、私は小さく声を上げて達した。
「……っ、ハァ……ッ、悟……」
「あぁ……ゆめ……」
蕩けた頭では、悟の甘ったるい声すら背筋に甘い痺れを走らせる。
全身で感じた快楽はまだわずかに私の体に燻っていたけれど、直ぐに動く事も出来ずに、ベッドにその身を横たえたまま放心する。
「アイツは、帰ってくるよ」
なにやら確信めいた悟の声を耳にしたが、それを問い返すような余裕を今の私は持ち合わせていない。
今は、疲れ果てて気だるい体と、指一本動かすことも億劫な程に押し寄せてきた眠気に身を委ねてしまおう。
彼に身体を預け、私は目を瞑る。
「おやすみ、ゆめ」
悟の手が私の頭の上を滑りながら、肩まで移動した。労わるような手つきに、私は静かに眠りの海に沈んでいく。
「……ほんと今更。傑から連絡が来ても、簡単にゆめに会わせないに決まってる」
意識を失う直前、悟が小さく笑った気がした。
END.