第8章 黒か青か (悟ルートへ)
私にとって、黒は特別な色だ。
好きな人の色。
急に、昨日の傑お兄ちゃんとの秘め事が思い出されて頬が熱くなる。
“黒”を想う甘い時間は、私だけの幸せな瞬間だ。これ以上、五条先輩に土足で踏み込まれるのだけは避けたい。
素直に黒と答えるのは癪な気がして、「白です」とだけメールを返すと、「他には?」と即返信があった。
五条先輩が私の好みを聞いてくる理由は謎のままで、また頭を悩ませながらベッドに腰掛けた。
「青です」
と、何も考えずに文字を打ってメールを送信した後で、ハッと気付いてしまった。
白い髪に、青い瞳の五条先輩の姿が脳裏をよぎる。
考え過ぎかもしれないけど、これじゃ遠回しに五条先輩が好きだと言ってるようなものじゃないかと、頭がサーッと冷たくなった。
訂正しようと、慌てて送信をキャンセルするボタンを押すには遅すぎた。送信されたと思ったら、もうメールが返ってきていた。
「祭りに行く前に寄るトコあるから、早めに迎えに行くからな」
言わずもがな、五条先輩からだった。
あんなに焦ったのに、好きな色については、全く話題に触れて無くて拍子抜けした。
夏祭りの前に寄りたい所というのは気になるけど、こちらから聞いても教えてくれないだろう。
明後日は五条先輩の言うことを聞いて、なるべく怒らせるようなことはせず、穏便に過ごすことにしよう。
「わかりました」
と、短い文章を打ち込む。
すると、十秒後にまたメールが返ってくる。
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