第8章 黒か青か (悟ルートへ)
「大事な大事な妹を、他の男に取られるのが嫌っていう兄心かな?」
と無邪気に笑った灰原くんの台詞に、何故か胸の奥がチクリと痛んだ気がした。
傍から見たら、やはり恋人ではなくて、過保護な兄と可愛いがられる妹に見えるんだろうな。
そんなやり取りをしつつ、各々パンやおにぎりを買った私たちは、三人で教室に行ってからお昼を食べることにして、食堂を後にした。
お兄ちゃんは私にも甘いけど、なんだかんだで五条先輩のワガママにもガードが甘いと思う。
普段は言い合ったり、ケンカばっかりでも、五条先輩のことを絶対的に信頼している証拠なんだろう。
揺るぎない親友という二人の空気感が、私は少しだけ羨ましい。
その日の夜は、傑お兄ちゃんが講義で出された課題を消化するために、一緒に過ごすことは出来なかった。
一人で夕飯を済ませてシャワーを浴びてから部屋へ戻れば、ベッド上に放置していた携帯電話にメールが届いていた。そのメールの差出人は五条先輩から。
「好きな色は?」
いつもだけど、前置きがなくて唐突すぎ。意味不明。思わず眉間に皺が寄ってしまう。
傑お兄ちゃんのことが頭に浮かんで「黒」と答えそうになったけど、本当に自分の好きな色は何かと問われると、即答出来ないなと思い直す。
特に考えたことなかったし、休日の普段着だって適当に決めてるだけだ。
お兄ちゃんのシャツを借りることもある。
クローゼットを開けると、無難な配色が並んでいて、白、黒、青が多いことに気付く。
「女子力低いクローゼット」
なんて、自分で自虐を呟きながら、適当に白い服を手に取ってみる。
無難、そして清潔感のある色が好きだけれど、世の女子は何色の洋服を持っているんだろうか。
雑誌を読まないし、流行りが分からない。
毎回「何色でも可愛いよ」と言ってくれるお兄ちゃんのアドバイスも参考にならない。
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