第8章 黒か青か (悟ルートへ)
「万が一、ゆめに何かあったら、夜蛾先生に制裁してもらうつもりだ」
「傑……そこで鉄拳マスター・夜蛾セン召喚すんのは卑怯だろーが」
「無下限を持つ悟に対しての、唯一の特効カードだからね。効果はバツグンだ」
「最悪クリティカルで俺死ぬだろ」
「アンデッド族デッキは?」
「カオス1強の時代に下剋上かよ」
なんとかモンスターとか出てきたり、なんとかスタンバイしそうな空気感。
また二人でゲームして遊んでいたのかと思えるような会話に、呆れの溜め息が出る。
この間の任務帰りにすれ違った小学生男子たちが、似たような会話してたなと思いながら、二人の言い合いを聞き流した。
今日は、五条先輩の方が分が悪そうだ。傑お兄ちゃんが、相手を容赦無くやり込めている。
「悟、ゆめを泣かせたら……」
「わぁーってるよ。傑が心配するようなことは何も無いから安心しろって」
五条先輩は「先行くわ」と私の頭をポンポンと軽く叩いて、そそくさと食堂を出て行った。
それでいて、どこか機嫌が良さそうな背中を見送ると、残された傑お兄ちゃんは複雑そうな表情を浮かべて私を見る。
「ゆめは、悟のことは嫌いかい?」
「嫌いじゃないけど……ちょっと苦手」
素直にそう答えると、お兄ちゃんは少し困ったような顔をして笑った。いつものように私の頭に手を置いて優しく撫でてくるので、黙ってじっとしていた。
五条先輩の撫で方は胸の奥がソワソワするけど、お兄ちゃんの撫で方は心地良くてフワフワする感じがする。
「まぁ、悟も悪い奴じゃないよ。素直じゃない上に、マイペースなとこはあるけどね」
傑お兄ちゃんは苦笑いをしつつ、私の乱れた髪を手櫛で整えてくれる。髪を耳に掛けてくれる時の感触が気持ち良くて、私はつい目を細めた。
五条先輩は悪い人じゃない。それは分かっている。
ただ、ちょっと性格が合わないだけだと自分に言い聞かせたけれど、あの人が苦手な理由は何となく気が付いていた。
五条先輩への苦手意識が消えないのは、掴みどころがない言動をする彼と、どう接して良いのか分からないからだ。
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