第8章 黒か青か (悟ルートへ)
「なるほど。悟が人生初の夏祭りデビューに、ゆめをね……デート相手のチョイスは良い趣味だと褒めてあげるよ」
「まぁ、五条に夏祭りなんて似合わないけど、楽しんできなよ」
「……何だよ、傑も硝子も馬鹿にしてねーか?」
周囲の見守るような、それでいて生暖かい目。
視線と雰囲気で何となく察したのか、五条先輩が怪訝そうに口を開く。
口元を手で押さえて、今にもププッと笑い出しそうな傑お兄ちゃんと、意味ありげにニヤニヤしている家入先輩の様子に、五条先輩はますます不機嫌になった。
それから、なけなしの情け心が動いたのか、お兄ちゃんは五条先輩と私が出掛けることを了承してくれた。
デートといっても、近くの神社で夏祭りに行くだけだ。それでも、五条先輩はやけに嬉しそうだった。
そんなワイワイとした談笑の後、午後の講義が始まる時間になり、解散の時間。
「明後日、夕方に迎えに行くから準備しとけよ。いつもの私服で良いからな」
五条先輩は念押しの台詞を吐きながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
自分本位で横暴な人だけど、その手付きは優しくて、何故だか嫌な感じはしない。
デートに行かずに済む方法は無いんだろうかと溜め息を吐く私とは裏腹に、先輩はとても楽しそうで晴れやかな表情に見える。
「悟、ゆめは繊細な子だから無理をさせないように気を付けてくれ。あと、他の男もゆめに目を奪われるはずだから、絶対に一人にさせないように」
「……傑、根っからのシスコンだな」
「ゆめは、目に入れても痛くないくらい、私の大事な妹だからね」
当然のように私の髪を弄り続ける五条先輩の手を、傑お兄ちゃんがさりげなく、にこやかに除けてくれる。
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