第7章 薄夜の蜉蝣
そして、私の生みの親の墓参りには毎年一緒に来てくれるので、傑は律儀な人だと思う。
二人で手を合わせた後で、傑は私の両親の墓石に触れ、柔らかな表情を浮かべていた。
学生の頃より髪を伸ばしている彼は、ハーフアップにしていた。
「ゆめ、ぼーっとしてどうしたんだい?」
私の顔を覗き込む傑の髪が、夏風に靡く。
学生の頃より少し精悍になった顔を見るのが何となく恥ずかしくて、私は視線をうろうろさせてしまった。そして、傑の手を握る。
「なんでもないよ」
そう言って笑ってみせると、傑は優しく手を握り返す。あの頃よりも骨張って傷も増えたけど、いつだって私を守ってくれる愛しい手が応えてくれる。
傑と寄り添って生きていくことを、亡き実の両親に心の中で誓った。
もう一度墓石を見つめた後、私は顔を上げて夏の空を見つめる。
眩しすぎて目が痛くなる程の晴天。
夏らしい入道雲が浮かんでいた。
「ゆめ、帰りはどこか寄ろうか?」
傑がそう言って微笑む。
私は大きく頷くと、彼の手を握り直し、生温くべたついた風を感じながら、夏の空の下を歩き出す。
「なんか冷たいもの食べたい。傑は?」
「うーん、そうだな……ここから近いカフェにでも行こうか。怪我で引退した元呪術師の知り合いが経営している店があるんだ」
「何がメインなの?」
「この間、地元の雑誌に『クセになる魅惑のサンドイッチ職人』って、絶妙なキャッチコピーで本人が紹介されてた。料理に関してはノータッチ」
「え……傑、その店大丈夫なの」
「私が食べた中では、パスタだけは世の中で一番超絶マズイから頼まない方がいい」
「やばー、面白そうな店」
どうでもいいような会話も、ささやかな幸せだ。
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