第7章 薄夜の蜉蝣
もうすぐホームに電車がやってくることを告げるアナウンスが流れ始めたので、繋いでいた手をすっと離そうとすると、すぐに握りしめられた。
驚いて見上げると、傑がこちらを振り向いた。
「離したくないんだ」
真っ直ぐに私を見つめながら言われてしまえば、断ることなどできなかった。
私は顔が熱くなるのを感じながら俯いてしまう。
それから、私たちは定刻の列車の到着まで何も言葉を交わさなかった。
ただ黙って、繋いだ手の感触を確かめるように指を絡ませていた。
そんな青い夏から月日が過ぎて、紆余曲折。
何度も話し合いを重ねて、義両親からは、私と傑の交際について「二人の好きにしなさい」と言質を取ることが出来た。
そして、卒業後の傑は五条先輩と揃って高専の教師になり、恐怖の特級呪術師兼「猿嫌いの夏油先生」として君臨することになる。
対呪詛師の戦いで、尋問の後にトドメを刺す様子は、さながら中華マフィアのボスのようだったと、震えながら話す若手の術師に、私も思わず半笑いになってしまった。
学生の時の星漿体の護衛任務の失敗は、傑の心に大きな傷跡を残した。
その後、一番傑を慕っていた灰原くんが任務の中で亡くなった影響は大きく、私もしばらくは立ち直れず悲しみに暮れた。
術師として才覚が有った七海くんは、高専を卒業したら一般企業に勤めるらしく、同期としては少し寂しいなと思った。
傑は、呪術師としての様々な苦しみと葛藤の末に、仲間は全力で守るけれど、非術師には一切配慮しない戦い方をするようになった。
思想の違いで、上層部と日常的にぶつかる彼に、私はハラハラしっぱなしである。
五条先輩も相変わらず悪ノリするタイプだから、大人になっても夜蛾さんに二人して叱られている場面によく遭遇した。
バカ共が喧嘩してできた怪我は治さないからと、医師になった家入先輩からも叱られていて、なんだかんだ毎日同期三人で楽しそうだ。
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