第7章 薄夜の蜉蝣
「ねぇ、」
私は傑の手を引いてこちらを向かせると、背伸びをして軽く口付けをした。
周りに人がいる場所でキスされると思っていなかったのか、少し驚いて目を見開く彼を見て、悪戯が成功した子供のような気持ちになる。
今度はほんのりと朱を帯びた傑の頬に唇を寄せたが、照れたように口をへの字にして、すかさず手でストップをかけられた。
「傑……私の本当の両親の墓参りに行かない?」
毎年一人で行ってたけれど、今年は傑と行きたい。
育ててくれた義両親の手前、実家の中で話題に出したことはなかった。
私が少し緊張しながら傑を見つめると、彼は視線を外したまま小さく頷いてくれた。
「いつがいい?」
「……明日とか」
私が即答すると、すぐに時刻表片手に路線と時間を調べて、「いいよ」と快く了承してくれた。
マメで行動が早いところは彼の良いところだけど、ライバルを増やす要因になるから、私以外には優しくしないで欲しいと思ってしまう。
「せっかく、お盆休みを三日間もらったし、このまま何処かに泊まろうか」
「未成年二人泊めてくれるとこなんてある?」
「高専関係施設なら学生証提示でいける」
「さすが、任務慣れしてる術師は違うね」
そんな会話をしながら、どちらともなく手を繋いだまま電車を待つ。
風が吹いてくるのに、それも湿気を帯びていて暑くて、額に汗がじわりと滲んできた。
「暑くない?」
「暑い」
私が尋ねると、傑は苦笑した。
それでも手を離そうとしないところが愛おしくなって、私は彼の手をぎゅっと強く握り直した。
「ゆめのご両親の墓前でなんて挨拶しようかな」
おどけて笑う彼に、
「いつもお世話になっています、とか?」
と、こちらも笑って返す。お互いに見つめ合って、ふはっ、と同時に噴き出した。
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