第7章 薄夜の蜉蝣
訪れた束の間の休息、八月の夏休み。
実家へ浴衣のお礼の電話をした際に、先に傑から私たち二人の関係をカミングアウトしていたせいか、小一時間ほど詰問された。
そして、私も実家から呼び出しをくらったので、兄妹二人揃って叱られに帰省することになった。
傑の一方通行の想いではなく、私も納得して彼を受け入れ、お互いの存在を必要としていることを育ての両親に話した。
やはり、若気の至りの気迷い事と一蹴され、交際は認めてもらえなかった。
私に至っては、こんなことになるなら高専への入学を許可しなければ良かったと涙ながらに言われ、私たちの恋が大切な人たちの心を傷付けてしまったことを痛感した。
けれど、譲れない想いがあるのも事実で、時間が必要なのは私も傑も覚悟していたので、根気よく理解を求めていくしかないと反省会をしつつも、二人で項垂れた。
「昨日テレビで見たんだけど……カゲロウってさ、夕方に羽化して、夜明け前にはほとんど死んじゃうんだって。なんか儚いよね」
帰りの電車を待つホームで私が呟くと、考え事をしていたのか、傑は曖昧に頷き返してくる。
日焼け止めを塗ったのに、八月の強い日差しで肌がチクチクする。
日傘を持ってくれば良かったと考えながら、気休めに腕をさすっていると、察しの良い傑は、私の肩を引き寄せながら影になっている場所まで誘導してくれた。
彼のこういうところが好きだ。
気遣いへのお礼を伝えて、こてん、と彼の胸に頭を預ける。まだ電車の来ない線路をぼんやりと見つめながら、私は勝手に話しかける。
「死ぬことが分かっているから、一瞬の生を精一杯大事に生きてるのかな。それとも逆で、生命を燃やすように精一杯生きてるから、死が早く来るのかな」
「……人間だってそうだろう。いつ死ぬかなんて、誰にも分からないから一生懸命なんだ。寿命を全うする呪術師の方が少数だよ」
傑は私の手を握ると、優しく手の甲を撫でてくる。
くすぐったい気持ちになりつつも、彼の手を握り返した。
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