第5章 憂いとけじめの青
「ずっと、待ってたのかい」
「……うん。連絡、ないから」
思わず恨みがましい口振りになってしまった私の言葉を聞いて、お兄ちゃんは肩を竦めた。
少しだけ、眉が下がっている。
違う、言いたいのはそんな言葉じゃない。
私は、努めて明るく笑いながら顔を上げた。
「おかえりなさい」
夜が迫る中の暗がりで、私は精一杯の笑顔を見せた。多くの言葉は要らない。
今は、“ただいま”が聞ければ、それで良い。
お兄ちゃんは微かに目を見開いたが、続けて緩やかに細めて頷いた。
「ただいま、ゆめ」
髪を撫でられて、心地良さに目の前の胸に身体を預けると、きゅっと抱き締められる。
優しくて大好きな手が、なだめるように私の背中をさすってくれて、頭上から「今日は甘えたがりかな」と笑う声がする。
それだけで、私は嬉しくて堪らなかった。
「連絡つかないから、心配してた」
「思ったより任務が長引いたんだ」
私を安心させる、この落ち着いた声が好きだ。
見上げた先、こちらを愛おしげに見つめる瞳と目が合って、胸が苦しくなる。私は再びお兄ちゃんの胸元に頭を預けた。
「……短い一言だけでも、連絡くれたら良かったのに」
つい恨み言が出てしまうが、優しい指先が私の額に触れた。汗で湿った前髪を横に流して、あやすように頬を撫でられて、何だか絆されてしまう。
おずおずと彼の背中に腕を回して抱き締めると、お兄ちゃんは私の耳元で「そうだね、私が悪かった」と笑った。
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