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【呪術廻戦】薄夜の蜉蝣【R18】

第5章 憂いとけじめの青


静まり返る寮から外へ出て少し歩き、校舎の裏までやって来た私は、一人でベンチに座り込んで空を見上げていた。

まだ空は明るかったが、夏空の裾は黄昏の色を帯びている。日没はあっという間に訪れるので、間もなく辺りは暗くなるだろう。

お兄ちゃんからは音沙汰ないままだけど、そろそろ寮に戻らなければと立ち上がろうとして、私はベンチに座り込んだまま自分の足元を見つめていた。

慣れない下駄を履いたせいで、鼻緒で擦れた足の親指と人差し指が赤くなっている。

痛いけど歩けないほどじゃないし、寮まですぐだし平気、と思っていたが、急速に闇に染まりゆく周囲に、何だか心細くなる。

「傑お兄ちゃん……」

一人呟いて、携帯を開くが、やはり連絡は何もない。

落胆して一息吐き出す。

ザッ、と砂利を踏む音。

同時に、俯いた私の影に大きな影が重なった。驚いて顔を上げると、思わず目を見開く。


「呼んだかい?」


聞き慣れた優しい声と共に、目の前で大きな手がひらひらと振られた。

顔を上げると、そこには恋焦がれていた人の姿。

移動用呪霊の虹龍を撫でた後に、自身の乱れた前髪を整えていた。

「傑お兄ちゃん、どうしてここに……」

私が目を瞠(みは)ったまま見上げていると、傑お兄ちゃんは呪霊を仕舞ってから、ふっと柔らかく笑った。

会いたかった、と。

そう口走りそうになって、躊躇する。なんだか恥ずかしくて口籠っていると、こちらの心を見透かす様に苦笑された。

「どうして、か。それは私が聞きたいな。ゆめが、こんな所で一人ぼっちで何をしていたのか」

そう言ったお兄ちゃんに、手を引かれ立ち上がる。

改めて、ゆるく手を握られて伝わる体温。否応でも上がる心拍数。

手が少し汗ばんだのは、夏の気温のせいだけじゃない。お兄ちゃんは、私が手に持っている携帯に視線を落とした。



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