第5章 憂いとけじめの青
静まり返る寮から外へ出て少し歩き、校舎の裏までやって来た私は、一人でベンチに座り込んで空を見上げていた。
まだ空は明るかったが、夏空の裾は黄昏の色を帯びている。日没はあっという間に訪れるので、間もなく辺りは暗くなるだろう。
お兄ちゃんからは音沙汰ないままだけど、そろそろ寮に戻らなければと立ち上がろうとして、私はベンチに座り込んだまま自分の足元を見つめていた。
慣れない下駄を履いたせいで、鼻緒で擦れた足の親指と人差し指が赤くなっている。
痛いけど歩けないほどじゃないし、寮まですぐだし平気、と思っていたが、急速に闇に染まりゆく周囲に、何だか心細くなる。
「傑お兄ちゃん……」
一人呟いて、携帯を開くが、やはり連絡は何もない。
落胆して一息吐き出す。
ザッ、と砂利を踏む音。
同時に、俯いた私の影に大きな影が重なった。驚いて顔を上げると、思わず目を見開く。
「呼んだかい?」
聞き慣れた優しい声と共に、目の前で大きな手がひらひらと振られた。
顔を上げると、そこには恋焦がれていた人の姿。
移動用呪霊の虹龍を撫でた後に、自身の乱れた前髪を整えていた。
「傑お兄ちゃん、どうしてここに……」
私が目を瞠(みは)ったまま見上げていると、傑お兄ちゃんは呪霊を仕舞ってから、ふっと柔らかく笑った。
会いたかった、と。
そう口走りそうになって、躊躇する。なんだか恥ずかしくて口籠っていると、こちらの心を見透かす様に苦笑された。
「どうして、か。それは私が聞きたいな。ゆめが、こんな所で一人ぼっちで何をしていたのか」
そう言ったお兄ちゃんに、手を引かれ立ち上がる。
改めて、ゆるく手を握られて伝わる体温。否応でも上がる心拍数。
手が少し汗ばんだのは、夏の気温のせいだけじゃない。お兄ちゃんは、私が手に持っている携帯に視線を落とした。
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