第5章 憂いとけじめの青
五条先輩がおもむろに私の方へと近付いてきたので、なじられるのだろうかと思ったけれど、そんなことはなく、ただ何も言わずに、じっと見下ろされる。
私はその険のある目から視線を逸らすことも出来ず、冷や汗をかきながら無言の圧を受け止め続けた。
「……後悔すんなよ」
一言そう言うと、五条先輩は私の横をすり抜けて歩き出した。金縛りが解けたように、私は咄嵯に振り向いて、その後ろ姿に向かって声を掛ける。
「五条先輩っ」
呼び止める声に足を止めた先輩だったが、振り返ることなく背中を向けたままだ。
私はその広い背中をじっと見据える。
ひらりと手を振って、五条先輩は「じゃあ、またな」と一言残し、私の前から姿を消した。
屋上に一人取り残された私は、脱力してその場に座り込んだ。五条先輩がどんな気持ちでいるのか、推し量ることなんて出来ない。
厄介事が無くなったというのに、夏空の下にうずくまる私の心中は、どうにも晴れなかった。
まるで、じりじりと照りつける太陽の光が、不甲斐ない私を責めているようだ。
私はコンクリートの地面を見つめたまま、しばらく動けないでいた。
悩みの種がまた一つ片付いて一件落着とはいかず。
午後、「実家に行ってくる」とメールが一通届いたのを境に、その日は傑お兄ちゃんからの連絡が途絶えた。
「大丈夫かな……」
朝の会話を思い出しながら、何の件で実家に帰ったなんて分かりきっていた。
きっと、家族会議が開かれて、私と傑お兄ちゃんが恋仲になることに対して、猛反対を受けているかもしれない。
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