第5章 憂いとけじめの青
夏空の下に佇む先輩は、相変わらずサングラスを掛けている。
真っ白いカッターシャツが昊天(こうてん)に映えて、きれいで眩しかった。
風に煽られて、白銀の髪がサラリと揺れている。
彼はこちらを振り向かず、柵の前に立って、遠くを見つめていた。
さながら、一枚の絵のようだと思いながら、私は恐る恐る歩み寄る。
「……あの、私、」
「あー、いいや。言わなくていい」
何か言わなければと口を開くと、先輩は遮るようにして片手を上げた。
いつもより低い声で、苛立ちを滲ませていて、その背中からは拒絶の意思を感じる。
怒っているのは明白だった。
「約束破って、ごめんなさい」
「別に、オマエに怒ってねーよ」
「でも……っ」
「ただ、ムカついてる」
彼は吐き捨てると、そのまま黙り込んでしまった。
しばらく沈黙が続く。風が吹いて、私の髪の毛を巻き上げた。
それすら気にならないほど、五条先輩の背中から目が離せなかった。
「いくら傑が好きだとしても、この先苦労するのは目に見えてるだろ」
「……わかってます。それでも、私はあの人を選びます。先輩に脅迫されても、それは揺るぎません」
私の答えに振り向いた五条先輩は、一瞬だけ、大いに不平だと言わんばかりの表情を見せた。
それから、私から視線を逸らすと、空を見上げて「そうか」と、ぽつりと呟いた。再び、沈黙が訪れる。
兄と私で話し合って、今の関係を家族へ打ち明けると決めたことを簡潔に伝えた。
それを聞いた五条先輩は、呆れたように溜息を吐いて、ガシガシと頭を掻きながら、「イカれてんな」と悪態をつく。
この選択に、微塵も後悔はしていない。
この恋が誰かを傷付ける罪になろうとも、私は地獄だろうと何処だろうと、あの人に隣にいると決めた。
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