第5章 憂いとけじめの青
お兄ちゃんの姿が見えなくなると、私も紙袋を手に、寮の自室へ戻ることにした。
一段飛ばしで階段を下りながら、途中でさっきのやり取りを思い出して、頬が緩む。
部屋に戻って早速、服を着たまま新しい浴衣を体にあててみて、姿見の前でくるりと回ってみる。
鏡に映った自分は、まるで自分じゃないみたいに大人っぽく見えた。
普段は下ろしたままの髪を高い位置でまとめてアップにすると、普段よりも涼しげに見える。
「……お兄ちゃんが頑張ってくれるなら、私もケジメをつけないとね」
私は一人呟くと、丁寧に浴衣を畳んで仕舞った。五条先輩に会って、明日のデートには行けないことを話さなければいけない。
さっきお兄ちゃんから聞いた話だと、今日は五条先輩は午前中は不在。
昨日の夕方から所用で実家の方へ帰っているらしく、高専に戻るのは今日の昼過ぎだという。
携帯を開いて、五条先輩のメールアドレスを呼び出す。夏祭りには行けないことをどう伝えようか。
メールに文字を打ち込んだが、なかなか送信ボタンを押せない。
悩みながら何度も文を作っては消してを繰り返し、結局送ったのは事務的でシンプルな文章になってしまった。
もしかしたら、目論見が外れて機嫌を損ねた五条先輩から連絡してくるかもしれないと思ったが、すぐに返信はなかった。
そして、その日の午後、高専に戻って来た五条先輩に呼び出しを食らった。
場所は高専の校舎の屋上。
気乗りしない足取りで階段を上がり、ゆっくり扉を開けると、そこにはすでに先客がいた。
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