第5章 憂いとけじめの青
二人でイチャイチャし過ぎた。
名残惜しいけれど、寝床を抜け出さなければならない時間が迫っていた。
お互い慌てて支度して、それぞれ講義に向かうべく、揃って部屋を出る。
寮の部屋を出たところでお兄ちゃんが「あ」と声を上げてから、ドアを開けて中へ戻ったので、何事かと思ったが、
「この間、実家に書類を取りに行った時に、預かった物があるんだ。忘れない内にゆめに渡しておくよ」
と、鍵を閉めながら手渡された紙袋を覗き込むと、浴衣と小物一式、白い封筒が入っていた。
上品な紺藍(こんあい)に、白い浜茄子の花が咲き誇る布地のそれは、素人が触っても質が良い物だと分かる。
突然のことに戸惑って、紙袋と彼の顔を交互に見ていると、
「浴衣は母さんからのプレゼントで、白い封筒は父さんからのお小遣いが入ってる。『友達と夏祭りを楽しんでおいで』って。さっきは色々と言ったけれど、悟と夏祭りに行くかはゆめに任せるよ」
そう言いながら苦笑するお兄ちゃんの表情に、思わず俯いて「ありがとう」と呟いた声が上ずる。
私は本当の夏油家の娘ではないのに、こんなにも家族から気に掛けてもらっていることに、心の奥がじわっと熱くなる。
そして、私の一途な想いをお兄ちゃんが信用してくれているのが伝わってきて、胸がいっぱいになって上手く言葉が出てこない。
「……あとで、家に電話するね。高専に入学してから、メールしか送ってなかったし」
「ああ、そうしてくれ。母さんも喜ぶと思うよ。じゃあ、私は行ってくる」
行ってらっしゃい、と手を振ると、傑お兄ちゃんも笑って小さく手を振り返してくれた。
こうして、お見送りをするのも久しぶりな気がする。
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