第3章 相互依存✿ (傑ルートへ)
お兄ちゃんはいつものように抱き締めてくれ、なじられたり、お叱りを受けることもなかったことに安堵した。
けれど、他の男性を一瞬だけでも思い浮かべてしまった後ろめたさが、心の澱(おり)のように残る。
「……ごめんなさい」
思わず謝罪の言葉が口から出る。
私の体をさする傑お兄ちゃんの手が止まった。
「ゆめ」
呼ばれて、ゆっくりと顔を上向かせる。
お兄ちゃんの瞳が、いつも以上に真剣で、吸い込まれてしまいそうだった。顔を寄せられて、こつんと額同士を合わせられる。
至近距離で見つめ合う形になって、恥ずかしくて堪らない気持ちになると同時に、どうしようもなく胸が高鳴った。
「君は、私にとって大切な存在だ。ゆめだけは誰にも渡さないし、傷付けさせない」
まるで誓うように囁かれる言葉。
きっとこの人は、自分の身を犠牲にしても、私のことを守ってくれるだろう。高潔で、優しい人だ。私はそれに報いることができているだろうか。
「ゆめがいなくなったら、私は生きていけないかもしれない」
「五条先輩とお出掛けするだけだよ?」
大袈裟、と笑ってみせると、お兄ちゃんの顔が更に近付いてきて、私の瞼や鼻先にキスを落としていく。
長い前髪が垂れてきて、私の頬をくすぐる。唇に温かいものを感じて、私は眼を閉じたまま受け入れた。
「……っふ……ぁ」
「……は……っ」
互いに貪るような深い口づけを交わす。
「んっ……」
舌先同士が触れ合った瞬間、甘く痺れた感覚に襲われて、びくりと身体が小さく跳ねた。
それを宥めるように背中をさすられて、だんだん力が抜けてくる。頭がぼうっとしてきたところでようやく解放された。
「ぁ……」
名残惜しげに小さく喘ぐと、「そんな顔しないでくれ」とお兄ちゃんが困ったように呟いた。
どんな表情をしているのか自分ではわからないけど、物足りないと思っていることが伝わってしまったらしい。
目の前のお兄ちゃんの手が視界に入る。
おねだりするように、ちゅっと音を立てて彼の指に軽く口付けると、傑お兄ちゃんは動揺したように少し視線を泳がせたあと、苦笑混じりに微笑んだ。
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