第3章 相互依存✿ (傑ルートへ)
教室に行く途中、七海くんと灰原くんは、かつてない程の兄の機嫌の悪さを察したのか、何も言わずに気遣わしげな視線を向けてきた。
大丈夫だよ、と二人に向けて笑ってみせたが、自分で招いた結果とはいえ、気分は重いまま教室の席に着いた。
放課後、寮の自室に戻って私服に着替えると、私は傑お兄ちゃんの部屋を訪ねた。
扉をノックすると、すぐに開いて迎え入れてくれる。いつも通り、一見優しそうな表情だが、目が微塵も笑っていないことに背筋がヒヤリとした。
これから説教を受けるのだと覚悟していたので、大人しく部屋のソファに座る。全身を預けたくなるお高めソファのはずなのに、今日はなんだか座り心地が悪い。
傑お兄ちゃんが「何か飲むかい?」と尋ねてくれたので、無難にコーヒーと答えた。
お礼を言いながらマグカップを受け取ると、ミルクと砂糖が入っていて、ふわりと甘い香りが漂う。
同じくコーヒーの入ったシンプルなカップを持って、傑お兄ちゃんも私の隣に腰掛けた。
「ゆめ、昼間のことだけど……」
やはり本題から入るのか。私は消え入りそうな声で「はい」と返事をした。正に蛇に睨まれた蛙状態だ。
「悟と、何があった?」
傑お兄ちゃんは怒ってはいない口調だったが、私の目を見て、起きたことを洗いざらい話すよう促すような視線を送ってくる。
私は観念し、一息吐いて、口を開いた。
お兄ちゃんにこれ以上心配は掛けたくないので、脅された件は伏せることにした。
五条先輩に告白めいたことを言われて、抱き締められたことは打ち明けた。デートも押し切られるように、勢いで約束してしまったことも話した。
私が全てを話し終えても、傑お兄ちゃんはしばらく何も言わなかった。ただ黙って私を見つめているだけだ。
やがて、大きな手が私の頬に触れた。
労るように優しく撫でてくれる。それだけでも、安心感が増してくる気がして、私は目を細めた。
そのまま親指の腹でゆっくり唇をなぞられる。
その仕草に、脳裏に五条先輩の影がチラつく。
あの時と同じ、身体の奥が熱くなってくる感覚を覚えてしまう。
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