第2章 甘く苦いメランコリー
よく見ると、長い全身が赤黒く変色しており、胴体に無数の目が付いていた。手足は枯れ枝のように細いが人間の手の形をしていて、カサカサと素早く動く。
大きなムカデの化け物のように見えた。
「う、うわああああっ!!」
あまりの醜悪さに、私は悲鳴を上げて尻餅をついてしまった。
「ゆめさん、落ち着いて下さい」
背後からの七海くんの声にハッとする。
素早く私を抱えて化け物と距離を取った彼は、既に武器を構えていた。その横に灰原くんが並んだ。
「七海、あれは何級相当だと思う?」
「図体はでかいですが、朝の説明では、呪霊が居ても三級程度と聞いた。知性は低そうだ。動きを封じてしまえば我々でも倒せない敵ではない」
「攻撃は未知だけど、強くはなさそうだね。じゃあゆめちゃんには式神で足止めお願いするか」
「……う、うんっ、頑張る。転んでごめん、七海くんありがとう」
私の前に並んで立つ二人は、すぐに戦闘態勢に入った。
私は、慌てて立ち上がると、ポケットから媒介の呪符を取り出して式神の召喚に取り掛かる。
私の式神は白い大蛇のような形をしているが、その全長は数メートルを超える。敵の大きさと良い勝負だ。
まずは、敵の脚と体を拘束するように指示を出す。
「行け!」
私の掛け声と共に、式神が敵に襲い掛かった。翻弄するように地を這い回りながら、敵の注意を引く。
本体に絡み付き、揉み合いから膠着状態になったところで灰原くんが飛び出した。
しかし、相手は巨体に見合わず俊敏で、彼の攻撃を難なく避けてしまう。その横から、間髪入れずに七海くんが攻撃を仕掛けた。
「十劃呪法……これで終わりです」
強制的に作った相手の弱点に、的確に一撃を与える術式は、確かに効果があった。断末魔と共に大きな音を立てながら、呪霊はその場に倒れ込んだ。
全身が黒くなり、崩れ落ちるように消えたのを見届け、ホッと胸を撫で下ろす。
「……怪我はありませんか?」
「うん、平気だよ」
「足止めありがとうございました。お陰で助かりました」
七海くんは、相変わらずの仏頂面だが、冷静だし術師としての腕は確かで、「その内頭角を現すだろう」と傑お兄ちゃんが言っていたのも分かる気がする。
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