第2章 甘く苦いメランコリー
私に気付いた二人が挨拶をしてくれる。
いつも通りの光景を見て、少しだけ気が楽になった。私もその輪に加わる。
「今日は任務慣れのための調査ですから、何もないことを祈ります」
「大丈夫、すぐ終わるって。七海って心配性」
朝から渋面の七海くんに、私と灰原くんも苦笑が洩れる。
三人揃って補助監督の車に乗り込むと、車はゆっくりと発進する。
任務地は、郊外にある古い雑居ビルのようだ。
取り壊しが決定した建物で、老朽化が進んでいるため解体業者が入る予定だったらしいのだが、作業員が作業を始めようとすると事故が多発したり、工事が中断してしまったりするのだという。
念のため高専に調査依頼が来たのだ。
現場に到着すると、早速帳が下ろされた。
私達は、それぞれ準備を整えて建物内に入る。
中は瓦礫と蜘蛛の巣ばかりだった。薄暗く埃っぽい廊下を進むと、奥の方で微かな物音が聞こえてきた。
「やだ……七海くんも灰原くんも聞こえた?何かいるのかな?」
「よし、行ってみよう!」
こういう時の、いの一番に走り出す灰原くんの行動力は見習いたいと思う。
「まとまって行動した方が」と言いかけて、七海くんが溜息一つ。私は、慌てて二人の後を追いかける。
音の鳴る方へ進むと、そこは広いホールになっていた。
天井の一部が崩落していて、そこから上の階の天井が見える。瓦礫に埋もれるように、白骨化した遺体が横たわっていた。
死後何年も経っていそうだ。
「酷いな……」
思わず目を背けたくなる惨状に、私は眉根を寄せた。遺体は損傷が激しく、服はボロ布のように破れていて性別すら判別できない状態だった。
「この人、呪霊に襲われたのかな?」
「それにしては……」
七海くんが絶えず周囲を警戒している。
私は、遺体の側に落ちていた古びた本を手に取った、その時だった。
ドォンッ!と大きな音を立てて、背後の壁が崩れ落ちた。咄嵯に振り返ると、そこには、私の背丈の二倍ほどの大きな異形の怪物が立っていた。
「ゴ……ゴアンナ……イ……」
口から、気味の悪い声でカタコトの言葉でなにやらブツブツ言っている。
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