第13章 白夜の陽炎✿
「ゆめ、起きてる?」
低くやわらかな声で、名を呼ばれた。
寝室の白い天井をぼんやりと見つめながら瞼をこすれば、霞がかった意識が徐々に明瞭になっていく。
学生の頃の夢を見ていたのだと、断片的に覚えている。
私の顔を覗き込み、穏やかに笑っているその人は、相変わらず端麗な顔立ちが目を引く。
そうだ、久しぶりに2人揃っての休日だった。
白い髪を撫で、腕を伸ばして抱きつくと、大好きな人の肩に顔を埋めた。大きな手がゆっくりと頭を撫でてくれるのを感じる。
「起きた途端に甘えん坊モード?泣きながら昼寝するなんて、怖い夢でも見た?」
冗談交じりに告げられる言葉とは裏腹に、優しい声音で名前を呼ばれるだけで、ふわふわとした多幸感に包まれる。
「あのね……傑お兄ちゃんが帰ってきたと思ったけど、夢だった」
「……そっか」
彼は短い相槌を返した後、私の髪に口付けを落とした。それを皮切りにして、次は耳や首にも降ってくる。私はくすぐったい不思議な感情を持て余しながら彼に身を委ねる。
「いつもゆめの傍に居るのは僕なのに、夢の中に出てこないわけ?」
少しだけ不服そうな表情で不貞腐れたような言い方をする恋人を見遣りながら、私は小さく笑って悟に手を伸ばし、頬をなぞるようにして触れた。
「うーん、覚えてない」
そう伝えると、不機嫌そうに眉を寄せてさらに顔を近付けてきた悟に、ツンツンと何度も頬を指で突かれる。
「何それ、薄情じゃない?」
「そんなこと言われても……」
私の曖昧な返事に、悟は納得がいかないという顔をしている。ふにっと頬をつままれて、「いひゃい」と抗議の声を上げても、悟はニヤニヤとした笑みを見せるだけで全くの無意味に終わる。
こんなくだらないやり取りも日常の一部となりつつある。
「あーあ、僕傷ついちゃったなー。ガラスのような繊細なハートがズタズター」
つねっていた指を離して悟がわざとらしく言うから、思わず私も吹き出す。
恨めしそうな顔をする悟の頬に唇を押し付けると、少し目を見開いた後に表情が柔らかく綻んだ。
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