第13章 白夜の陽炎✿
私も背中に腕を回し、力を込めて抱きしめ返すと、お互いの鼓動が伝わり合うような密着具合が心地良い。
「落ち着いたようだな」
五条先輩の声に年上の余裕を感じて、何だか悔しいけれど、さっきまでの心の痛みは随分と和らいできたような気もする。
「さっき、傑お兄ちゃんにフラれました」
「あーなるほどね……俺んとこに来たのはそういうことか。そんで、納得いく話は出来たか?」
問われ、再び涙がポロポロとこぼれてきてしまう。
それを見た五条先輩の表情が一瞬曇ったように見えて、私は急いで涙を手の甲で拭うと言葉を続けた。
「お兄ちゃんに助けてもらってばかりで、何も返せてないのに……グズグズして踏ん切りのつかない私の背中を押してくれて、『幸せになってほしい』って言われ、て、それで……ッ」
勝手に目から雫が溢れる。
「私、すごく卑怯、です。お兄ちゃんに辛い決断させて、五条先輩にも迷惑、かけて……」
そこまで言って言葉を失ってしまった私を見て、五条先輩は私の肩を抱く腕に力を込め、ほんの少しの間だけ躊躇(ためら)いがちに口を開く。
「傑は、ウゼェくらいにド正論かざすからな。言う事には一理あるからいちいち腹立つんだよ。だけど、俺は頭でっかちの『正しさ』をオマエに押し付けて泣かせたいとは思わない」
「五条先輩……」
「どの道が正しいか、じゃない。オマエがどうなりたいかを考えろ」
「わた、し……は……」
五条先輩の言葉を脳内で反芻する。
本当は、答えなんて最初から決まっている。だけど、それを口にしていいのか二の足を踏む自分がいる。
一抹の迷いを感じ取ったのだろう。五条先輩は少し考えるようにしてから言った。
「今どんな選択をされても、俺は……その、オマエのことが好きなのは変わんねーよ」
真っ直ぐに私の瞳を見つめながら告げてくる先輩に、私もまた彼から目を離せないでいる。
「これから先も、俺の隣に居るのはゆめがイイんだよ」
なんて素直に気持ちを見せる人なんだろう。私も意地を張らない自分でいられる。
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