第13章 白夜の陽炎✿
「起こしてしまってすみません。五条先輩に会いたくて来ちゃいました」
私が素直に思っていた事を口にすれば、彼は訝しげな視線をこちらへ送ってくる。
「……傑と何かあったのか?」
そして、寝ぼけ眼を擦ってから、虚な表情のまま直球で聞いてくる。
私は首を横に振ったが、脳裏に浮かんだ傑お兄ちゃんの言葉のせいで涙が込み上げてくる。
五条先輩の前では泣きたくない。そのままぐっと堪えて、笑ってみせた。
「そういえば、今日の任務はどうでしたか?」
と首を傾げて聞き返せば、五条先輩は無言で私を凝視する。
しばらく両者間で沈黙が続いたところで、先に口を開いたのは五条先輩の方で、「ここで寝るか?」と言いながら、狭い簡易ベッドの上で横の隙間をポンポンと手で叩いた。
私は少しの時間話せれば満足だったので、慌てて首を横に振りつつ断る。すると、突然腕を引っ張られてベッドに引きずり込まれてしまった。
瞬きする間に、目の前が白で埋め尽くされた。
五条先輩のシャツに顔を寄せる形で倒れ込み、そのまま身動きが取れなくなってしまった。
胸板を押して距離を取ろうとするがビクともしない。むしろ背中に回った腕に力が込められただけだった。
「余計なこと考えんな、寝ろ」
頭上から落とされた声は僅かに掠れていた。
五条先輩が、私の髪を弄ぶようにして指に絡めながら梳くように撫でていくので、気持ちの良さと安心する体温に、段々と絆されていく。
抗議することは諦めた。
身体を包む五条先輩の匂いに浸って、ずっとこうしていたくなる。
先程まで押し潰されそうな苦悩に苛まれていたというのに、心が安らいでいく自分の単純さに嫌気が差す。
「……っ、ふ……」
緊張の糸が切れたせいか、堪えていたものが決壊した。
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