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【呪術廻戦】薄夜の蜉蝣【R18】

第13章 白夜の陽炎✿


部屋から出て行こうとすると、傑お兄ちゃんに引き止められたので、振り返る。

こちらをじっと見ていたが、歩み寄ってきて、僅かに視線を落とす。まるで確かめるかのように私の両手を握った後、名残惜しそうにその手を解いた。

「ありがとう、ごめんなさい」

私が小さな声で呟くと、いつもの任務前の激励のように笑って送り出してくれる。

最後に一度振り返った。

傑お兄ちゃんはひらひらと手を振っていた。私もそれに応えるように小さく手を振り返すと、後ろを見ずに部屋の扉を閉める。


いまだ足が震えて心臓がバクバクと音を立てているが、ここまで来たらもう後戻りはできない。


私は深呼吸をしてからゆっくりと歩を進めた。

深夜の廊下に響く足音も怖くなかった。

医務室の隣の仮眠室へと急ぐ足取りは、どこか現実味がなかったけれど、頭の中は妙にスッキリしていた。

「もう、戻れないなら行くしかない」

自分で自分を励ましながら、仮眠室の扉をそっと開ける。中に入れば真っ暗だったけれど、窓から入る月光で室内はほんのりと明るかった。

部屋の一画に、白いレールカーテンで覆われたベッドが一つ。そろそろと忍び足で近付き、カーテンの隙間からその中を覗き込む。

サイドテーブルに無造作に置かれたサングラス、そして見慣れた白髪の頭がチラリと見えて、五条先輩だと確信する。

音を立てないようにベッドの横に移動すると、私の気配に気付いたのか、綺麗な睫毛に縁取られた碧眼が姿を現す。

次の瞬間には、術式を発動させようとした五条先輩の指が鼻先にあった。

一気に浴びせられる警戒の殺気に、身体中の毛が逆立つ。

「あ?……なんだゆめか」

侵入者が私だと認めると、驚いたように目を見開いてベッドの上に座り直した。

緊張が霧散して、いつもの五条先輩の表情に戻っていた。


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