第13章 白夜の陽炎✿
「私もゆめが好きだよ」
夢の中にいるような、ふわふわして、幸せな時間だ。まるで麻薬のよう。私はこの腕の中から出たくないと願ってしまうのは依存なのだろうか。
この人を五条先輩の代わりにしたいわけではない。
お兄ちゃんはお兄ちゃんで、私の心を満たしてくれる存在であることは変わりない。
「だから、もう終わりにしようか」
抑揚のない彼の言葉に、私は固まった。
「……なに、を?」
聞き返した声が震えているのが自分でも分かる。
傑お兄ちゃんは私を抱き込むのをやめて、目の前に移動してくる。
先程の言葉の意味が分からずに動揺しながら首を傾げていると、彼は真剣な面持ちでこちらを見据えた。
「私が、耐えられないんだ」
突然のことに頭が追いつかない。
私の中で何かが崩れていくような感覚に、必死に取り繕う言葉を探すも見つからない。
「え……なに?どうして……?」
声ではなくて、空気が漏れ出る。
かろうじて口唇を開いて尋ねると、傑お兄ちゃんは自嘲気味に笑って言う。
「ゆめの心が、悟のものだから」
ひどく混乱した状態のまま、傑お兄ちゃんから放たれた一言が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
それでも容赦なく言葉は続けられる。
「ゆめが一番分かってるだろう?」
私は、何も言わずに傑お兄ちゃんと視線が重なるように顔を上げた。言葉を発するのも怖くて、ただただ見つめ合い続けるだけだった。
私が返事もせず、口をパクパクとさせながらぼんやりしていると、彼は困ったような曖昧な表情で微笑んだ。
「私は、兄として、ゆめに幸せになって欲しい。本当は妹として、恋人として、君を私に永遠に縛り付けておきたいのが本音だけどね」
今、私はどんな顔をしているのか。
傑お兄ちゃんのように、泣きそうな顔で見つめ返しているだろうか。
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