第12章 狼さんの甘咬み✿
「バイバイしたばっかりなのに……また会いたくなっちゃった」
敷布に顔を押し付けたまま呟いてみる。
五条先輩の声が聞きたい。また名前を呼んで欲しい。そう思えば思うほど恋しさが込み上げて、早く明日になればいいのにと願ってしまう。
また会いたくて仕方がないのに、会ってしまったら、もっと辛くなる気がした。
「これ以上好きになったら……私、どうなっちゃうんだろう?」
答えの出ない問い掛けを誰に言うわけでもなく口にする。
目まぐるしいスピードで、五条先輩のことで頭がいっぱいになっていく。初めて、お兄ちゃん以外に抱いたこの恋心の行く先は、まだ闇の中。
私が悶々とした気持ちでいることなど知らない先輩は、翌日以降も当たり前のように現れては私の頭を撫で回し、一緒にいた傑お兄ちゃんに注意されていた。
一人で勝手に気まずく感じていたのだが、彼は何事もなかったかのように振る舞っているし、私もそれにつられて普通に接している。
五条先輩は、普段通り私をからかってきたし、私もそれに乗ってみせていた。
ただ、偶然二人並んだ時は少しだけ態度が違っていて、「オマエのことばっか考えてた」などと、こっそり耳打ちしては私を困らせる。
「ちょっと、五条先輩……傑お兄ちゃんに聞こえちゃう。昨夜のアレは内緒なんですから」
そう言って人差し指を唇に当てて注意すると、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべて「りょーかい」と、コソコソ耳打ちしてくる。
私はというと、内緒という言葉に胸を高鳴らせていた。すでに体を重ねてしまった「二人だけの秘密」を持っている事実にドキドキしていると、五条先輩はふっと笑って私の髪の毛をくしゃくしゃと撫で回す。
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