第12章 狼さんの甘咬み✿
「俺も、来て良かったと思ってる」
甘い雰囲気のまま見つめ合っていると、唇が近づいてくる気配がして目を閉じる。
柔らかい感触が伝わったと思ったら、五条先輩はおもむろに上体を起こす。
「そろそろ部屋に戻るかな」
そう言ってベッドから出ようとする先輩の手を捕まえて、少し握る。すると応えるように手を握り返され、私を引っ張って起こしてくれた。
「なぁ、ゆめ」
名前を呼ばれて顔を上げると、五条先輩の真剣な表情があった。
何を言われるだろうかと身構えている私に、先輩は口を開いた。が、言葉を発することはなくて、代わりにひとつ息を吐いたあと、ふっと笑っただけだった。
「いや、やっぱいーや」
髪を一撫でされてから、そっと体が離れていく。私は不思議に思い首を傾げた。
「もしかして……昼間、傑お兄ちゃんに何か言われました?」
恐る恐る尋ねると、先輩は口角を上げ、私の瞳を真っ直ぐ捉えた。
「別に」
そう言ってはぐらかすように言った後、何とも言えない眼差しで私を一瞥し、来た時と同じように窓から出ていった。
私の部屋の扉から出ていく姿を誰かに目撃されないようにと、彼なりに気を遣ったのだろう。
一人になった部屋でベッドに寝転がると、先輩の匂いがまだ残っていることに気付く。
「……ッ、ん」
奥に潜む性欲がじわりと滲み出す。寂しさを埋めるように枕に顔を押し付け、再び火照り始めた体を鎮めるように目を瞑る。
「五条、先輩……悟先輩……」
口から出た名前は、昨夜呼んだ時よりも、何倍も甘ったるく感じられた。無意識に、下半身に手が伸びる。
「はぁ……っ、あ……先輩……」
指先に絡みつく粘液。最深部まで彼に満たされる体感は、指二本では足元にも及ばない。五条先輩のニオイを思い出しながら、自分を慰めるしか出来ない。
布に胸の突起が擦れるだけで蜜が滴る。
罪悪感を抱えながらも快感が上回り、枕に顔を埋めたままくぐもった声で彼の名前を呼んで達した。
欲に濡れた指先を目の前に持ってくれば、自分がどれほど彼に溺れているのかを、まざまざと思い知らされた。
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