第2章 甘く苦いメランコリー
反射的に首を手で隠しながら、まさか情事の声を聞かれていたのかと、心臓が大きく跳ねた。
五条先輩は、私の反応を見て確信を得たのか、クッと口角を上げた。
私は何も言えずに押し黙る。
しばらく沈黙が流れた。
遠くで虫の声だけが、うるさいくらいに響いていた。
「ゆめと傑が血の繋がりがない兄妹だってのは、割と前から知ってた」
御三家は互いに牽制し合っているから、情報戦がモノを言うんだよ。続けてそう呟いた五条先輩は、買った缶ジュースを片手に、私の隣に荒っぽく腰を下ろした。
隣で青いサイダーの缶を静かに開ける音が響く夜の帳。私は、ただ彼の横顔を見つめることしかできなかった。
私達の目の前を、しつこく横切る蛾がいる。
鬱陶しそうに、五条先輩が空いてる方の手を向ける。
呪力が小さく爆ぜるバシュッという音とともに、羽をもがれた蛾が地面に叩きつけられた。
「俺のところに上がってきた報告書では、『ゆめは親を事故で亡くし、夏油家に引き取られたのは10歳の時』『当時の隣家の住人によると、両親が旅行で一週間留守になったことがあり、二人が男女の関係になったのは、ゆめが14歳の時だと推測』『その期間の後、公園の木の陰でキスをする二人の姿を、近所の青年が目撃している』とかな。大体当たってるんじゃないか?」
この人は、どこまで知っているのだろう。
私の心の中まで見透かされているようで、なんだか怖い。
何と返答すればいいのか、迷っているうちに、先に彼が口を開いた。
「これをネタに、今からオマエを脅迫するけどイイよな?」
冗談なのか本気なのか、相変わらず真意の掴めない口調で話すものだから、一瞬聞き間違いかと思った。
でも、私に向けられた青い眼が真剣そのもので、息を呑む。ゴクリと喉を鳴らす音が耳の奥で鳴った気がした。
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