第2章 甘く苦いメランコリー
私が夏油家に養子として迎えてもらったのは、小学生の時。両親が事故で亡くなり、私は天涯孤独の身になった。
私の実の父と親友だった義父は、私を引き取ることを快く承諾してくれたらしい。
育ての両親は、私と傑お兄ちゃんを別け隔てなく育ててくれたし、本当の親と変わらないくらい私を心配してくれていると思う。
お兄ちゃんは思春期を迎えてから、両親と距離を置くようになった。私の知らないところで、何か確執があったのかもしれないと、今ならそう思う。
傑お兄ちゃんは、私が高専に入学した時には、既に呪術師として立派に任務をこなしていた。
「あの家は息が詰まるんだ」と、たった一度だけ、兄の本音を聞いたことがある。
「ゆめ」
突然名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
「あ、五条先輩……」
顔を上げると、そこには完全にオフの時の、ラフな格好をしていた五条先輩が立っていた。Tシャツ姿でサングラスも外しているし、普段よりもかなり雰囲気が柔らかい。
こんなところで会うなんて思わなかった。どうしよう、何だかよく分からないけど気まずい。
「ここにいるってことは、今まで傑のとこに居たんだな」
「あ、はい。気がついたら、この時間でした」
自分でも違和感なく言葉が出てくる。お兄ちゃんの部屋にいたことは事実だ。余計なことは言うまい。
「ふーん……」
五条先輩の片眉が少し上がった。
私の顔から手元に視線を移してから、こちらの返答に納得していないような相槌を打つと、「ちょっと暇つぶしに付き合えよ」と言って、先輩の指が自販機のボタンを押した。
ガタンと音を立てて落ちてきたいちごオ・レのペットボトルを取り出して、私に投げ渡す。
「オマエ、いつもコレ買ってるだろ」
何気ない五条先輩の一言に、覚えていてくれたのかとドキッとした。
「え、あ……ありがとうございます」
緑茶の缶を太ももに挟んで、反射的にそれを受け取ったものの、フタを開ける気分になれず、そのまま両手で握りしめたまま俯いた。
「……首にキスマークついてるぞ。傑の部屋でナニしてきたんだ?」
「……っ!」
いきなり直球で指摘されて、思わず言葉に詰まった。
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