第12章 狼さんの甘咬み✿
会えて嬉しいという本音と、お風呂上がりのバサバサの濡れ髪・スッピンのままの姿で会いたくなかった乙女心とで、気持ちがせめぎ合う。
部屋から追い出す事も出来ず、結局は招き入れることになってしまった。
先輩は脱いだ上着を椅子の背もたれにバサッと掛け、キョロキョロと室内を見渡している。
人様に見られて困るものは置いてなかったはずと、私も先輩の視線の先を見遣る。
「あ?髪、乾かしてないのかよ」
バチッと目が合ってしまった。
おもむろに彼はこちらへ手を伸ばしてきた。
私の髪を一房指先で弄びながら、顔を覗き込んでくる。付き合っている間柄みたいな、くすぐったい空気感。髪に触れる手の感触が心地よくて、拒否することもせずに黙って頷いた。
「そういや、濡れたままにしてるとハゲるって硝子が言ってたぞ」
そう言って、デスクの上に置いておいたドライヤーを勝手に持ってきたかと思うと、ベッドをポンポンと叩いてから、私に手招きする。
首を傾げる私に、五条先輩は得意げな顔で言った。
「ゆめの髪、乾かしてやるよ」
断る理由は特に無かったので、素直にベッドに腰掛けると、横に五条先輩が立つ。
腕が伸びてきて、温風と共に彼の指が私の髪に絡みつく。
「熱かったら言えよー、冷風に変えっから」
先輩の鼻歌が聞こえる。
私の髪の絡まりをほどきながら、梳くようにして乾かしてくれる。自分でやる時とは違って、人にしてもらうのは気持ち良い。
手付きも優しいし、何より距離感が近くてドキドキしてしまう。昼間の傑お兄ちゃんの言葉を思い出すと複雑な心境だったが、この時間がずっと続いて欲しいとさえ願ってしまう。
「ほら、終わったぞ」
カチッとドライヤーの電源を切る音に、私はハッとして顔を上げる。後ろの方で、先輩がドライヤーを置く気配がする。
ほんの少しの時間、ぼんやりとしてしまった。
ふぅっと小さく息を吐く。
お礼を言うために振り向こうとした時、伸びてきた腕にギュッと抱きしめられた。
間近にある先輩の匂い。暑い中任務を頑張ったのが分かる。フラッシュバックするのは、汗だくで抱かれた昨夜の情景。
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