第12章 狼さんの甘咬み✿
――その日の夜。
お風呂から上がり、少し早いけれど寝ようかと思っていたところだった。タオルで髪を拭きながら、メールを確認しようと携帯を開いた。
その時、私の部屋のどこかからコンコンと何かを叩く音が聞こえたような気がした。
微かな音だったので気のせいかとも思ったが、じっと耳を澄ませていると、窓のあたりから同じ音が鳴った。
不思議に思ってカーテンを開けてみると、外に白い頭の人影ひとつ。
「ご、五条せんぱ……!」
ガラッと開けながら声を出すと、口を塞がれた。
「ゆめっ、声がデカい」
周りに聞こえるだろ、と。
突然窓から会いに来たサングラスの王子様は、悪戯っぽい笑顔を浮かべて人差し指を唇の前に当てる。
先輩は、そんな仕草すら様になっていた。
私も声のトーンを落とす。
「傑お兄ちゃんと任務じゃ……」
「行った行った。学生にやらせる任務量じゃねーっての。夜蛾センの人使い荒すぎ。あちこち迷路作る厄介な呪霊はいるわ、傑はずっとピリピリしてるわ、呪詛師にパンピを人質に取られるわで、ついさっき報告書を叩きつけてきたとこだよ」
傑お兄ちゃんがピリピリしている理由に心当たりがあるので、私は内心冷や汗をかいた。
まさか五条先輩に付けられたキスマークを見られましたなんて、言えやしない。
「先輩は今から部屋に帰るところだったんですか?」
「……ん。ついでに、ゆめが寂しくて泣いてんじゃないかと思って会いに来てやった」
「子供扱いしないでください」
私が不満げに唇を尖らせると、彼は「素直じゃねーな」と言って笑い飛ばす。
水が飲みたい、エアコンの風に当たりたい、任務帰りの先輩を労れ……と。
五条先輩は一方的に要求を言いつつ、ずかずかと私の部屋に入ってきた。
→