第12章 狼さんの甘咬み✿
「五条先輩の目……綺麗だったな」
ペットボトルの蓋を人差し指で撫でながら、思い出すのは昨夜のお祭りのこと。
そして、その後の出来事。
彼の視線が嫌じゃなかった。私の顎をそっと持ち上げた時の表情を思い出すだけで、一人でジタバタしてしまう。
夢中で交わしたキスの感触が鮮明に残っていて、無意識に唇を指でなぞる。
あの時のゾクゾクとする気持ちよさが忘れられない。目を閉じると、瞼の裏の闇に五条先輩の残像が浮かぶ。
「はぁ……」
自然と漏れ出た溜め息は重かった。
切なげに眉を寄せて私を見つめる、アクアマリンのような彼の瞳。
私の名前を何度も繰り返し呼ぶ甘い声。熱い吐息。大切なものに触れるように伸ばされる手。
五条先輩に会いたい気持ちが、私の意思に関係なく膨らんでいく。もう際限なく、止めようもない。
「私、五条先輩のこと、本気で……」
そう自覚した瞬間、己の中で何かが綻ぶ。
傑お兄ちゃんが好きだという気持ちに嘘はない。
でも、五条先輩への気持ちも確実に育ちつつあって、それを無視できなくなっている。
この気持ちが許されるのか分からなくて、怖くて仕方がない。
「どうしよう、私……」
ペットボトルをぎゅっと握りしめながら、私は頭を抱えることしかできなかった。
→