第2章 甘く苦いメランコリー
次に目が覚めた時には、すっかり夜になっていて、なにやら上機嫌な傑お兄ちゃんと一緒に夕飯を食べてから、私は寮の自分の部屋に戻ることにした。
腕時計に目を遣ると、すっかり21時を回っていた。なんだか考え事をしながら帰りたくて、お兄ちゃんが私の部屋まで送ると言ってきたのを断った。
「何かあったら、すぐに連絡しておいで」
と念を押して言われた後、頭や頬を何度か撫でられて、その部屋を後にする。
「うん、おやすみなさい……」
去り際に、いつものようにキスをして欲しかったけれど、どうしてか、それは言えなかった。
廊下に出てから階段を降りて、寮の一階にある自販機コーナーに向かう。
飲み物を買って、近くのベンチに腰掛けた。いつも甘いものを飲むけど、今日は緑茶の気分だった。
激しい交わりの後だからか、はたまた鬱屈とした思考からくる気怠さのせいか、なんだかすべてが億劫。
一息ついてからプルタブを開けて、冷たいお茶を飲む。
「……はぁ……」
思わず溜息が出た。
「このままで良いのかな……」
自販機の光の前で独りごちる。
傑お兄ちゃんとは、血の繋がっていない兄妹。
でも、そんなことはもうどうでもいいくらいに、私は恋をしている。
遠くない未来、この関係が明るみになった時に破綻するか成就するか、義理の両親含めて周りからどう反応が返ってくるか、漠然とした怖さがある。
気がつけば、義理の兄を好きになっていた。
そんな少女漫画のような話、自分に起きるなんて信じられなかった。
最初はその微笑った顔の裏で何を考えているか分からなくて苦手な人だったのに、一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど、惹かれていった。
意外と小さいものが好きで、雨の日に捨てられた子猫を抱き上げた時の、デレデレとした甘い表情は反則だった。
「そこのコンビニで牛乳買ってくる」から始まって、「ウチで飼えないか、父さんや母さんにゆめから聞いてみてくれないか?」と、目を輝かせて子猫を撫でる体の大きな中学生男子。
普段のお兄ちゃんと言動のギャップが有りすぎて、笑ってしまった記憶がある。
自販機の光に惹き寄せられたカゲロウや蛾が飛び回っている。それらを眺めながら、私はぼんやりと思考を巡らす。
→