第12章 狼さんの甘咬み✿
吸い込まれそうなほど深い色の瞳に囚われて目が離せない。
そのまま彼の唇が近づいてきて再び口付けられると、自然と瞼を閉じてしまった。
「ん……ふ……」
傑お兄ちゃんの舌が口内に侵入してくる。
歯列をなぞり上顎を撫でられると、背筋が甘くピリピリする。息継ぎの合間に漏れる吐息さえ、逃がさないと言わんばかりに深くなる口付けに翻弄される。
「好きだよ……ゆめ」
何度もキスをしながら愛の言葉を囁かれて、胸の方へするりと腕が伸びてきて、私が焦った時だった。
お兄ちゃんのシャツの胸ポケットの携帯が着信を知らせる。その音が私達を現実に引き戻した。
「ごめん、ちょっと」
と、電話に出る彼を横目に、私は慌てて乱れた制服と髪を手で整える。
まだ心臓がバクバクと暴れている。何でもないフリをして、平静を保つよう努めた。あのまま流されてたらどうなってたか。
未だに燻っている熱に気付かないフリをして傑お兄ちゃんの方を見ると、どうやら五条先輩と話しているようだった。
一般人の保護のために現場へ先行していた他の術師と高専の連絡が途切れたらしく、お兄ちゃんと五条先輩に任務のお鉢が回ってきたのだと、断片的な会話から窺い知れた。
「分かった。今から私も向かう。もし悟が先に着いたら……いや駄目だ、一般人の保護を優先してくれ。力任せに破壊すれば建物が崩壊する可能性が……まぁ、悟は無傷で済むけどね……は?……あー、もう好きにやってくれ」
不穏な通話が終わると、私の方を振り返る。
その表情は少し曇っていて、何か不測の事態にでも陥ったのだろうかと不安になる。
「傑お兄ちゃん……?」
心配になって声をかけると、彼は困ったような笑顔を浮かべて私を抱きしめた。
「急だけど任務が入った」
そう呟いた声はどこか残念そうだったが、既に術師の顔をしていた。
彼の背中に手を回し抱きしめ返し、安心させるように「大丈夫」の意味を込めてぽんぽんっと優しく叩くようにして撫でた。
すると、お兄ちゃんが私の首に顔を埋めたまま、ぎゅっと力を込めて苦しいくらいに抱き込まれる。
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