第12章 狼さんの甘咬み✿
ブハッと吹き出す音が聞こえて、恥ずかしくて下を向いたまま紙袋を受け取る。
「ゆめから呼び出されるの、珍しいね」
ひとしきり笑ってから、そう言って微笑むお兄ちゃんは、いつもと変わらない優しい顔をしていた。
その笑顔に、なんだか胸がヒリヒリと痛むけれど、私は意を決して口を開いた。
「……昨日、五条先輩から好きだって告白された。もし、私に好きな人がいても、先輩が卒業するまでに決めてくれたらいいからって言われた」
私が打ち明けた瞬間、傑お兄ちゃんの顔から表情が消えた。真顔のまま数秒黙り込んだ後で、すぐにいつもの笑顔に戻るが、その笑顔がどこか強張っているように見えた。
「あぁ、そうなんだね」
特に感情を出すこともなく淡々と答え、パンの袋を開け始めた様子に、拍子抜けしてしまう。
もっと動揺してくれるんじゃないかと思っていただけに、なんだか少し残念な気持ちもあった。
「その感じだと、傑お兄ちゃんは知ってたの?五条先輩が私のこと好きだって」
「……まぁ、あれだけ分かりやすくゆめに接してればバレバレだね」
「そっか。五条先輩って意地悪ばっかりしてくるし、私のこと嫌いなんじゃないかと思ってたから驚いちゃった」
少し気まずい雰囲気の中、私も渡されたパンを一口齧る。
私の大好きなふわふわの焼き立てメロンパンをチョイスするあたり、お兄ちゃんは私よりも私のことを知っているんじゃないかって、そう思ってしまう。
傑お兄ちゃんは紅茶のペットボトルの蓋を開けて一口飲むと、パンを頬張る私を見つめる。
「それで……ゆめはどうしたい?」
「どうって?」
「まさか、悟と付き合いたいとか?」
そう問われて、なぜかすぐに否定の答えが出なかった。五条先輩のことをどう思っているのか。
そもそも恋愛に関して、“初めて”を全部お兄ちゃんで消化してしまった私にとって、人を好きになるということがどういうことなのか、まだよく分かっていなかった。
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