第10章 彩光✿
触れ合っている部分から、この音が先輩に伝わってしまいそうだ。
私の心臓は破裂しそうなくらい五月蝿くて、さっきから呼吸がうまく出来ない。
「せ、せんぱい」
やっとの思いで声を出すと、五条先輩は私から手を離し、向かい合うように座らされた。
易易とサイダーを没収されて、「あ」と洩らして顔を上げる。そうして否応でも視線が交わる青い瞳は、たった一人、私だけを映す。
まるで、吸い込まれそうな感覚になる程に、空色の虹彩は微動だにしなかった。
「ゆめが、傑を好きなのは知ってる」
五条先輩の手のひらが、私の頬を滑る。
「オマエの心を、今すぐに俺だけに向けようとは思わない。けどな、いずれ……」
至近距離で囁かれて、そのまま顎の下を擽られる。
こそばゆいけれど、何だか変な気分になりそうだ。
自分の心臓の音がうるさくて、私は先輩から顔を背けようとしたが、それを許してはもらえなかった。顎を固定されて、真っ直ぐな青い視線から逃れることが出来ない。
「 」
耳を聾(ろう)するほどの花火の炸裂音が、五条先輩の言葉をかき消した。苛烈に燃える炎のような強い光を放つ彼の瞳から、目が離せない。
窓の外では、煌めく光の残滓が瞬く間に散っていく。
息がかかる程に近い距離にいる先輩との沈黙が重苦しくて、私は息を詰まらせた。
その刹那。五条先輩は私の後頭部に手を添えて、ゆっくりと顔を近づけてきた。眼前で先輩の白い髪が揺れる。
我に返って目を見開くと、段々と視界が彼で埋め尽くされて、唇に柔らかい感触がした。
「ん……」
ああ、熱くて溶けそう。
それなのに、こんなに心が苦しくて切ないのは何故だろう。
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